72 マナトとルナ
個室を叩く音がして、マナトは目が覚めた。
「……ととっ。は~い」
――カチャッ。
扉が開き、ルナが入ってきた。
「目覚められたんですね」
「あぁ、どうも」
初めてサライで出会った時に見た、エスニックな模様がある、緑色のつなぎ服を着ている。
「体調、どうですか?」
「はい、大丈夫そうです」
「よかったです。長い時間、寝られていたようなので……」
マナトは窓の外を見た。真っ赤な空だ。
「うわ……これ、もう、夕方ですよね?」
「はい」
「あはは、寝たなぁ~。……どぞ」
それとなく、マナトはルナに、イスに座るように促した。
「……あの、すみません。ひとつ、謝らなければならないことがあって」
ルナはイスに座ると、申し訳なさそうに言った。
「はい?」
「マナトさんが火傷を負っていたので、訪問医を呼ぼうとしたんですけど、ジン討伐に医療隊として出ていて、今はいないって言われたので……」
「えっ?……あっ」
マナトは頬と腕の、火傷箇所に布があてられていることに気づいた。患部には何か、塗り薬みたいなものが塗られている。
「勝手ながら、治療させてもらいました。火傷痕が残ると、よくないと思って……」
マナトは頬に貼られている布に手をやった。
「これを?僕が寝てる間に?」
「はい」
「ルナさんが?」
「……はい」
ルナの青い目には、治療を受けたマナトが写っていた。
……マジっすか。
「……」
「いや、あの……むしろ、ありがとうございます!あれ?でも、塗り薬なんて、誰も……」
「ミトさんが、どうやら行脚中に集めた薬草で、つくっていたみたいですよ」
「あっ!たしかに、薬草集めてたっけ」
「それを分けてもらいました」
「何から何まで……ほんと、ありがとうございます」
「いえ、そんな……」
ふとマナトは、ミトとラクトのことが気になった。
「ちなみにミトとラクトって、大丈夫なのかな?最終的に2人のほうがズタズタに……」
「あっ、ミトさんとラクトさんは、昼過ぎにはもう、回復したみたいで」
「えぇ……?」
……昨日、あんなにズタズタに切り傷つけられていたのに、元気すぎる。
やはり、フツーの人間ではない。同じ体型をしていても、なにかが違うとマニトは思った。
「ウテナと市場に行ってますよ。『服買ってくる』って2人が言ったら、『じゃあ、あたしが選んであげる!』って、ウテナが。マナトさんの分も、選んでくるって」
「あっ、それは、ありがたい」
「……それで、本当は、何があったんですか?」
「……」
マナトの脳裏に、ジン=マリードがよぎる。
……言ってはいけない気がする。
ジン=マリードが、塵となって消えていくという、戦いの最後に見せたもの。
もし本当のことを言ったら、その瞬間にサァ~っと、ジン=マリードが「言ったね~!」と塵と共にいきなり現れるんじゃないかと思ってしまう。
消えたのだから、現れることも、可能性としては、十分にあり得る。
「すみません、今は、ちょっと、言えないんですよ……」