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2話 僕はこの世から消えていた

 朝起きたら、昨晩考えた通り、自分が一昨日まで暮らしていた吉祥寺の家まで行ってみることにした。今日は、チャレンジとして、薄手のワンピースで行くことにした。

[さすがに、女、女した格好で、恥ずかしいな。下スースーだし。でも、ワンピースじゃないと、上と下で、どう合わせるのか、どう着るのかよく分からないから、ワンピースは助かる。そうそう、上とか下じゃなくて、トップスとボトムスだ。言葉も覚えないと。まず、よく、周りの女を観察して、どう合わせるのか調べよう。トップスをボトムスに入れるとか、外に出すとか。でも、女の服って、ボタンで前開きになっていない服も多いし、なんか不思議だ。でも、なんか、見られている気がするな。あの男、ジロジロ見やがって。お前の女じゃないんだよ。]

 勝己が睨むと、相手の男性は自分のスマホに目を向けた。
 
 寮の最寄りの駅である広尾から恵比寿経由で渋谷に行って、渋谷から吉祥寺。もちろん、このルートはよく知っている。渋谷から、少し北に歩いていって、自分の家があったところに着いた。

[え、家がない。自分の家が、なんかビルになっていて、あれ、ここにあった自分の一軒家がなくなっている。どうしてだ? あ、近所のおばさんが来たから聞いてみよう。]

「あの〜、ここに、昔、清水さんていう人の一軒家があったような記憶があるんですけど、何か覚えていませんか?」
「どなた? 私、ずっとこの辺に住んでるけど、ここはずっと昔からこのビルが建っていましたよ。清水さん? 知らないですけど。急いでいるんで、すみません。」

[どうなっているんだ。俺がいた痕跡がなくなっている。俺は戻れないのか? ずっと、この体で過ごしていかなくちゃならないのか? 何もかも分からない。]
 
 勝己はとりあえず、家に帰ることにした。
[まず、これ以上考えても、結論出ないから、少し汗をかいたし、まず共同浴場でシャワーを浴びてから考えよう。昨日は時間も早かったし、まだ始業式まで時間があるからか、誰とも会わなかったけど、今日はもう17時だし、誰かと会っちゃうかもね。]

 勝己は共同浴場に行くと、すでに1人入っていた。

[いよいよ、本当の女風呂に入るんだな。これはワクワクしちゃう。ただで、女の裸が見れるなんてラッキーだ。俺も女の体だから、きゃーということはないよな。では、さっそく、おじゃまします。]

 先に入っている人は湯船に浸かっていて、勝己は、背中を向けて体を洗い始めた。そうすると、その女性が横に座ってきた。横から見るだけでも、胸も大きくて、スタイルも良く、魅惑的すぎる。これって、いいのか〜?

「私、今年入いる1年生ですけど、先輩ですか? 同じ1年生ですか?」
「1年生です。」
「そうなんだ、よろしくね。いつこの寮に入ったの?」
「2日前。」
「私も〜。広尾って、おしゃれなお店とかいっぱいあるから楽しみだよね〜。でも、緊張しているの? それとも人見知り?」
「それほどでもないですけど。なんか、初めてで。」
「あ〜そうなんだ。温泉とか銭湯とか来たことないのね。だから恥ずかしいんだ。でも、そんなにジロジロ見てると、変わっているって思われちゃうよ。あ、ところで、ここって、ムダ毛剃っていいんだよね? 昨日は人がいなかったから剃っちゃったけど、どうなのかな? 知っている?」
「よくわかりません。」
「敬語じゃなくていいよ。そうだよね。共同浴場初めてじゃ、わからないっか。まあ、他で剃れないし、剃っちゃうしかないね。」

[剃り始めたけど、足とか、脇だけじゃなくて、あそこも剃るんだ。びっくり。そういえば、あそこ、つるつるで毛がないじゃないか。]

「そんなに見ないでって、言ったじゃない。あ、そうか、あなたパイパンじゃなくて毛がもじゃもじゃだもんね。ごめん、悪気はなくて、言い方間違えた。毛がない方が清潔だし、結構、そういう人多いんじゃないかな。それが気になったのね。私は、剃ることを薦めるわ。」
「そうなんですね。今度、やってみます。」
「最初、剃ると、ちくちく痛いから、脱毛とかいいと思うよ。」
「アドバイス、ありがとう。」
「かわいい声なんだから、もっと話した方がいいよ。また、今度、レストランとか一緒にいこうね。」

[そうなんだ。でも、毛がないと、あんな風になっているなんて知らなかった。でも、これが毎日だと楽しみだな〜。]

[お風呂から上がったけど、髪を乾かすのは面倒だな。でも、前髪は長めだけど、後ろ髪はあまりないっていうのは面白い。女の髪ってあまり見たことなかったけど、これなら、夏でもそんなに暑くなさそうだ。でも、乾いたら、櫛でとぐぐらいでいいのかな。カーブとかかかってなかったようだったから、それでいいような気もするけど、そういえば、なんか挟む棒みたいな電化製品があった。あれで、髪を巻くのかもしれない。部屋に帰って調べてみよう。]

勝己は、今日、女性言葉になっていないと気づいたので、今夜は、女性言葉を勉強することにした。どんな人が見ているのか、よく分からないが、YouTubeを見ると、女性らしい抑揚とかいっぱい出ているので、今夜も深夜まで取り組んだ。

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