バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

55 料亭の亭主②

 「ウテナさん、大丈夫?」
 ミトが、ちょっと心配そうに、ウテナに聞いた。

 「だいじょぶ~」

 ウテナは応えたが、お酒に酔っているようで、ほっぺたの上が赤い。

 そして、ラクトにもたれかかる形で、身体を預けている。

 「だ〜か〜らぁ〜、ラクト。アンタはぁ、もう、アレよアレ〜」
 「おいおい、ウテナ。お前、ちょっと、酔い過ぎだぜ……」
 「ラクトはぁ、変態!」
 「うぐっ……」

 もたれかかられているウテナに言われ、ラクトが、どうしていいいか分からないといった様子だった。

 「ラクトさん、大丈夫ですよ」
 ルナが、苦笑しながら言った。

 「もう、おそらく、ウテナは今言ったことも、今の状況も、明日になったらたぶん、覚えてないので」
 「えっ、あっ、そうなの……はは」

 どこか残念そうな感じで、ラクトは苦笑した。

 マナトはもう一度、厨房を眺めた。

 ……あの恰幅のよい亭主は、ジン。

 さっき亭主のそれに見たのは、完全にジンの性質、血を持たないのそれに違いない。確かに、普段は人に化けていた。

 かといって、誰かに危害を加えている訳ではない。亭主は相変わらずご機嫌そうに、料理人に指示を出しながらてきぱきと次の料理をこしらえて、お待たせ〜!と客に運んでいる。

 ……危害を加えていない以上は、これは、どうなのか……。
 
 目線が、目の前に戻ってきた。

 「でも、ウテナ。普段はこんなの、他人にはぜったいに見せないんですよ」
 ルナが嬉しそうに言った。

 「そうね」
 フィオナも、ウテナを見ながら、優しい目をして微笑んだ。

 「このコのこんな姿、久しぶりに見たかも。やっぱり、みんな、年もキャリアも近いし、話しやすいのかしらね」

 ……今、ここで言うのは、ちょっと、アレかな。

 亭主のことについては、後で話そうとマナトは思い直した。

 「あっ、ちなみに、遠征には何回くらい行かれてるんですか?」

 ルナがマナトに聞いた。

 「はい。僕とミトとラクトは、今回が初めてです」
 「えっ!あっ、そうだったんだんですね」
 「なので、すべてが初めてだらけというか、新鮮というか。ルナさん達は?」
 「2回目ですよ」
 「へぇ!」
 「私たちも、1回目はこのアクス王国でしたよ。王宮商人との交易で」
 「あっ、じゃあ、一緒ですね」
 「王宮、ホントに豪華ですよね~」
 「……うん?」

 ウテナが、会話のはずむマナトとルナを見た。酔いで少し目がすわっている。

 「てゆ〜かぁ〜、ルナ、いまの表情とかぁ、ちょっと前にしてた表情とかぁ、なんか幸せそうっていうかぁ。なに?もしかして、マナトくんのこと、好きなんじゃないの~?」
 「えっ!!ちょ、ちょっとウテナ!?」

しおり