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【九】座学から



 翌朝、俺はフォードと共に朝食を食べてから、冒険者ギルドを出た。
 朝の大通りを歩いていき、目的地の鍛錬場――【エーデルワイト】へと向かった。
 エーデルワイトは、一見すると立方体の施設で、四階建てだった。
 受付があって、受講を希望するコースが選択できる。

「じゃあまたあとでな!」

 フォードは迷うことなく剣士の初級コースに申し込んでいた。頷いた俺は、魔術師の護身術のコースを眺める。五日ほどかけて学ぶようで、初日は座学と書いてある。俺は書類に名前を書いて、料金を支払った。

「二階ですよ」

 受付の青年に促され、俺は頷いてから施設の中へと入った。絨毯の上を歩き、階段を進んで、指定された部屋へと入る。すると講師の魔術師が中にいた。座学を本日から学ぶらしき人も数名いる。俺は教本を受け取って、奥の席に座った。

 今日は教本を読み、分からないところがあれば講師に質問をする形のようだ。
 俺は表紙をめくって活字を目で追う。

 ――魔術師の護身術として、最も有用なのは、風属性の魔術と雷属性の魔術である。
 そんな出だしで始まっていた。
 なんでも風属性の魔術で、足や手、その他の身体動作を補助する事で身軽に、素早く動く事ができるそうだ。雷属性の魔術に関しては、特に接近戦において、短剣や双剣に雷の魔術を付与する事で、相手を斬るのではなく感電させて気絶させたり不意を衝く事が主体となるらしい。一つ一つが分かりやすく書いてあるので、これならば俺にもできるかもしれないと感じた。

 足運びから、剣の扱い方まで、一通り読んでいき、教本をすべて読み終える頃には、既に夕方になっていた。昼食は食べるのを忘れてしまった。

 こうして一日目が終わったので、俺は宿を取っている冒険者ギルドへと戻った。
 すると既にフォードの姿があって、骨付き肉を食べているフォードが顔を上げた。

「ジーク!」

 名を呼ばれたので笑顔を返し、俺はフォードの正面の席に座った。そして自分用には夕食として、魚の揚げ物を頼む。

「どうだった? 俺はかなり剣士らしくなったぞ!」
「今日は座学だった、俺は」
「ふぅん。俺は早速案山子を斬って斬って斬ってきたんだ。この調子で、明日も頑張る」
「俺も明日からは実技らしいんだ」

 こうしてお互いの受講内容を話しながら、夕食をとった。
 それぞれの部屋に戻り、俺はシャワーを浴びてから、寝台に体を投げ出す。するとすぐに睡魔に襲われたので、俺はそのまま瞼を閉じた。

 ――二日目からは、座学で覚えた基礎を正確に実戦で使えるようにと、俺は風と雷の魔術を体や武器に付与する練習をした。貸し出された短剣や双剣で練習していたので、四日目の帰りには、大通りの店で自分専用の品を購入した。そうして最終日の五日目を向かえる頃には、なんとなくカンを掴んだ気がする。

 咄嗟に襲われても防御して相手を気絶させるくらいは出来るようになっただろう。
 あとは経験を積むべきなのだろうが、俺はあまり人とは戦いたいとは思わないので、襲われる前に逃げるという選択肢を選べるように、周囲に気を配りたいなと考えている。

 もう講習は終わったので、六日目の朝は、ゆっくりと俺は階段を下りた。すると同じく講習が終わっていたフォードが、食堂の隅で、新聞を広げていた。その表情が、いつになく険しい。

「おはよう、フォード。どうかしたのか?」
「おはよ! うーん……見てくれよ、この記事」

 その言葉に、俺は隣の椅子に座りながら、大陸新聞を見た。
 大きな記事が三つある。

 一つ目は、魔王軍による人間の拉致と書いてある。
 二つ目は、人間の国にいた魔族と半魔を、魔王軍が徴兵のために呼び寄せたという記事だ。これは、人間の国に攻め入るための本格的な準備ではないかと書かれている。

 そして一番大きな見出しが、三つ目で、魔王軍の魔族による、人間の村の襲撃とある。なんでもそれまで平和に暮らしていた村々が、一夜にして襲ってきた魔族の手に落ち、今ではそこには、陥落させた魔族が常駐しているらしい。

「魔王軍の動きが気になるな。ジークはどう思う?」
「怖いな……拉致された人間はどうなったんだろうな……襲われた村にいた人々はどうなったんだろうな……」

 俺は思わず両腕で体を抱いた。フォードは難しい顔で腕を組んでいる。

「このさ、滅ぼされた村の一つに、ローズベリー村って書いてあるだろ? ここ、俺のお祖父ちゃんの家があったんだ」
「えっ?」
「で、隣の家のおじちゃんは、魔族だったんだよ。だから、俺はたまに遊びに行くと、同じ年のそこの家の子――半魔の幼馴染と、よく遊んだんだ」
「半魔……」

 俺はまだ、半魔と呼ばれる魔族と人間の混血の存在には、一度も会った事はない。

「ローズベリーの村には、魔族と人間の夫夫(ふうふ)が三組住んでいて、半魔も結構いたんだよな。魔族は俺としては怖いし倒すべきだと思うけど、あの村にかぎっては、みんないい人だった」
「そうだったのか……」
「で、この記事によると、だな? 魔族と半魔は徴兵された風に書いてあるし、人間は拉致されたとあるし、村は滅ぼされたとあるけど……ほら、これ。昨日俺宛てにお祖父ちゃんから手紙が来たんだよ。俺がここを目的地にしてるってお祖父ちゃんは知ってたから、ここの冒険者ギルドに届いたんだけどな」
「うん? 見ていいのか?」
「おう。ちょっと見てくれ」

 フォードに差し出された手紙を、俺は受け取った。

『最近半魔への差別が酷くて嘆いていたのだが、保護されて魔王国に入った今は、皆元気にしておる。儂も暫くは魔王国で過ごす事に決めた。手紙はこちらへ送ってくれ』

 内容を見て、俺は首を傾げた。

「お祖父さんが無事でよかった」
「ありがとう、まぁ俺のお祖父ちゃんは殺しても死なないくらい元気だけどな。ただ、この手紙を読む限りさ、村が消滅したっていうけど亡くなった人がいるようには思えないし、保護って書いてあるし……お祖父ちゃん騙されてるのかな? どう思う?」
「分からない」
「俺もさっぱりだ。そこで俺は、真相が知りたい。だから、一つの案としては、ローズベリー村まで旅をしてみようかと思ってる。ただ、もう一つの考えとしては、魔王国に向かって、お祖父ちゃんと話をするというのもありかなぁって考えてる」

 つらつらとフォードが語った。頷きながら俺は耳を傾ける。

「ジークだったらどうする?」
「俺だったら、ローズベリー村を経由してから、魔王国に行くかもしれない」
「それもいいな。そうしようかなぁ」

 そんなやりとりをしてから、俺は朝食を頼んだ。そしてハムエッグを食べていると、フォードが隣で唸った。

「どうしようかなぁ、今後の方向性に迷う。ジークはこの後はどうするんだ?」
「俺はまた次の依頼を見つけて、旅を再開しようとは思ってたんだけどな。まだ具体的には考えてない」
「目的地はないのか?」
「特に決めてないんだ。依頼によって、次の行き先を決めようかなと思っていたんだ」
「じゃあ、ローズベリー村まで一緒に来てくれないか? 俺、一人では不安なんだよ」
「ああ、いいけど。じゃあ、そうするか?」
「ありがとうジーク!」

 こうして、俺の次の行き先が決定した。




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