【二十二】謎解きの開始 ―― 銀の覆いの下の皿 ――
山縣は推理をしないと宣言していたから、悲しい事に期待はできない。
逆に僕自身は、なにか自力でもヒントを見つけ出せるか――山縣に有益な情報を渡す事ができるかを試したいという想いもあった。探偵技能だけでなく、ここでは助手としての技能もまた、磨く事ができるはずだからである。
チラリと御堂さんを見れば、目が合い、微笑みかけてくれた。
それだけでテンションが上がる。
すると日向と山縣が呆れたように僕達を見ていることに気づいて、僕は慌てて顔を背けた。山縣にも言われたが、僕はやはり、ミーハーなのだろうか。
「ご着席ください」
現れた双子の青年の横にいた、支配人だという青年がよく通る声で言った。
その通りにすると、僕達の背後には給仕の人々が並んでいく。
「まずは料理をお楽しみください」
そんな声が響いてきて、銀の覆いが、隣から手を伸ばした給仕の人々の手により取り去られた。皿があらわになる。
僕は最初、何が起きているのかわからなかった。白い皿には赤い血が溜まっていて、その上には人間の頭部がのっている。血の気の失せた顔で瞼を閉じている、男性の首がある。血は、首の切断面から皿に流れ出しているように見える。瞼の色も唇の色も、紫色に変色していて、顔の肌の色は青戸茶色と紫が入り混じって見えた。
「……」
――僕は、この光景を知っている。
「くだらねぇトリックだな。トリックと言ってもいいのか、これ」
山縣の声がする。
けれどそれが、とても遠く聞こえた。
ぐらりと僕の視界が二重にブレる。
「朝倉!」
気づくと僕は、椅子から転げ落ちていて、山縣に抱き起されていた。
呼吸が苦しくて、涙が浮かんでくる。過呼吸を起こしたらしいと漠然と考えた時、遠のきそうになった意識に、過去に見た陰惨な事件の風景がよぎった。
あの時僕は、確かに切断された頭部に囲まれていた。
そして、僕もまた、そのうちの一つになるはずだった。
僕は今、どうしてここにいるのだろう。
「朝倉!!」
続けて名前を呼ばれた時、そういえばあの時も、山縣の声を聞いたのではなかったかと考えた。
――あの時?
僕達は今年の春に出会ったはずだ。
では、あの時とは、一体いつだ?
そう考えたのを最後に、僕の意識は完全に暗転した。