【二十一】陸の孤島・金島 ―― 理想の助手? ――
フェリーが到着した陸の孤島は、金島という。島には左右対称の街が展開していて、小高い場所に、洋館がある。主人は双子の青年なのだという。金という字も中央に線をひく事で、対称となるから名づけられたらしい。
ただここはミステリーツアーのために用意された島であるから、あくまでもそういう設定だ。探偵機構日本支部が借り上げている場所である。
行き先不明という内容ではなく、俗にミステリーと称されるような、トリック――ハウダニットやフーダニットといった謎解きをするのが、このツアーの趣旨であり、探偵技能の向上を目的としているという説明が、フェリー内での夕食の席でも行われていた。本物の事件が起きる事はないが、遺体や被害者に扮したエキストラはいるとの事で、それは犯人役も同じだそうだった。館自体や島全体にも仕掛けがあるのだという。
洋館の二階にある客室に、僕と山縣は入った。それぞれベッドに荷物を置く。
夕食は、本日は十七時からなので、それまであと一時間ほど、僕達は部屋で休む事になる。僕はチラリと山縣を見た。寝そべっている山縣だが、『ああいうやつの助手になりたかったのか』だなんて、先ほどは愁傷な事を言っていた。
山縣でも、そんな事を考えるのかと、驚いたというのが本音だ。
気にさせてしまったなら悪かったなと思いつつ、僕は端正な山縣の横顔を見る。
そしてふと思った。
「ねぇ、山縣」
「あ?」
「逆にさ、山縣はどんな助手がよかったの?」
「どういう意味だ?」
「朝はゆっくり眠らせてくれる人とか……なんていうか、理想の助手?」
「俺はお前がいればそれでいい。お前以外の助手なんていらん」
断言されたものだから、僕は自然と嬉しくなった。
山縣は山縣なりに、僕をきちんと助手だと感じ、認めてくれているのだろう。
その後夕食までの間、僕達は雑談をして過ごし、指定された時刻に食堂へと向かった。不思議と、山縣と一緒にいると、無言でも気まずくはないのだが、会話が弾む事が多い。
食堂には、白いテーブルクロスのかかった、長いテーブルがあって、銀の覆いがついた皿が並んでいる。肉料理でも入っているのだろうか。ナイフやフォークの数から、そんな事を考える。
席はすべて指定されていて、探偵と助手は隣り合わせだ。僕は山縣の右側に名札が置いてある。
偶然にも、正面の席は御堂さんと日向だった。
間近で二人の推理とサポートを見られるのかと思うと、心が躍る。