【二十】山縣の学歴 ―― 山縣の問いかけ ――
焦って僕は、山縣の腕を引く。
「山縣、相手は御堂さんだよ?」
「あ?」
「みんな見てるから、もうちょっとさ……」
ひそひそと僕が言うと、胡散臭そうに僕を見てから、山縣がチラリと御堂さんを一瞥し、そちらに向き直った。
「――何か用か?」
「うん、僕も山縣と話したかったし、僕の助手もそちらの助手と話したいと言っていてね」
御堂さんがそう述べてからこげ茶色の瞳を、隣にいた日向に向ける。
金色の髪を揺らした日向は、じっと僕を見ると、一歩前へと出た。
「いつ日本に帰ってきたの?」
「え、あっ……春に」
「そう。もう大丈夫なの?」
「大丈夫って? なにが?」
僕が首を傾げると、日向は何か言いたそうな顔をしてから、頭を振った。
「なんでもないよ」
それから日向は、山縣を見た。山縣は何も言わない。
すると御堂さんが、吐息に笑みをのせた。
「山縣は、ちょっと丸くなったね」
「へ? どこがですか? それに、知り合いなんですか?」
僕は驚愕して、思わず口走った。
すると山縣は呆れたように僕を見た。
そんな僕達の前で、微笑しながら御堂さんが頷く。
「僕と山縣は、#山階__やましな__#探偵学園で保育園から大学までずっと一緒だったからね。同じクラスだった」
「えっ? 同じクラス? 普通能力に応じたクラス編成ですよね? ん? 御堂さんはS組のはずで……まさか、山縣も? え?」
虚を突かれて僕は、おろおろしてしまった。
山縣は双眸を細くしている。
「しかし山縣がこういうイベントに顔を出すのも珍しいな。君はあまりこういうゲームは好きではないだろう?」
「朝倉が思いのほかミーハーでな。お前と日向の事もキラキラした目でいつも見てるぞ。主にテレビで」
事実ではあったが、僕は羞恥を覚えて、思わず山縣を軽く睨む。
「や、山縣!」
「事実だろ」
しかし山縣は呆れたような顔のままだ。
すると御堂さんが喉で笑った。
「なるほど、助手に頼まれたら断れないね、それは」
穏やかに御堂さんが言う。御堂さんは物腰が本当に柔らかで、とても優しそうだ。
「夜の推理ゲーム、山縣達と勝負できるのを楽しみにしているよ」
御堂さんはそう口にすると、日向を促して歩き始めた。
僕達四人は同じ歳ということだが、御堂さんが大人っぽく感じるのは、落ち着いているからだろうか。
二人の背中をじっと僕が見ていると、不意に隣で、ぼそっと山縣が言った。
「朝倉は、ああいう奴の助手になりたかったのか?」
「え?」
それを聞いて、僕は山縣に向き直った。
山縣はいつもと変わらない表情で僕を見ている。
僕は軽く首を振った。
「そうじゃないよ。山縣に、ああいう風に活躍してほしいと思う事はあっても、他の誰かの助手になりたいと思うわけじゃないからね」