【六】運命の絆? ―― 犯罪・事件マッチングアプリ ――
なお、Sランクに到達した事のある探偵は、過去に五人ほどしかいないそうで、犯罪者に狙われる可能性があるからと、氏名は公表されていない。まぁ探偵の場合はランキングが下降するので、今はSランクではない可能性もある。
逆にEランクの探偵は、珍しいとすらいえる。
探偵ランキング最下位、ポイント最低者として、山縣は非常に有名だ。
そんな方向性で名を売らなくてもいいと僕は思う。
だが山縣本人には、向上心ややる気というものが欠落している。
それでも山縣だけが、僕の運命の探偵であるから、僕はそばにいるしかない。
それが、世界探偵機構の取り決めた規則だ。
たまに他の探偵と助手に会うと、僕は憐れみを含んだ目で見られる事が多い。
「はぁ……」
これでまだ、山縣が性格的にいい人であったならば、僕も我慢できる。だがそろそろ限界だ。山縣はゲームで遊んでばかりで、たまに僕を見ると、我がままをいうのみだ。
「朝倉ー!」
山縣が浴室から僕の名前を呼んだ。
「バスタオルが無ぇんだけどー! 下着も出しといてくれ」
それくらい自分で用意しろよと思いつつ、僕はひきつった笑みでそれらが入っているクローゼットへと向かった。
僕は笑顔だが、キレそうである。
だというのに、言われたままに僕は準備をしてしまう。
なんとなく、山縣の世話をしてしまう。
これが、運命の絆という事なのだろうか?
そんな探偵と助手の絆、僕はいらなかったと心底思う。
洗面所兼脱衣所にある洗濯機の上に言われたものを置いてから、僕は横長のソファへと戻った。そして再びマッチングアプリを眺める。
「山縣に出来そうなものは……そうだなぁ、猫探しかな。他にないなぁ」
ぶつぶつと呟いていると、山縣が戻ってきて、僕の隣に座った。僕は半眼でそちらを見ながら、少し横に移動して距離をあける。すると指の長い骨ばった手で、不意に山縣が僕の頭の上をポンポンと二度叩いた。
「鬱陶しいな、やめろよ!」
「ん」
山縣はなにかと僕の頭を撫でる。
「俺はお前がいないとダメなんだよ。帰ってきてよかった」
「それはそうだろうね。僕がいなかったら、家もなくなるからね」
「そういう意味じゃねぇよ。とにかく、いないとダメなんだよ」
山縣は僕をまじまじと見ると、真面目くさった顔でそう述べた。