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【五】山縣が称賛してくれる事 ―― ハウスキーパー≒助手 ――


 なお山縣には好き嫌いはみえず、僕の用意したものならばなんでも食すのだが、肉じゃがとハンバーグは中でもリクエストが多い。ただ他にも、僕は見ていて、山縣が好む料理をいくつもすでに覚えた。

「出来たよ」
「ん」

 僕の声に、山縣が頷いた。僕は完成した肉じゃがと、土鍋を用いて炊いたばかりの白米、他には切り干し大根を簡単に用意して、リビングへと運んだ。食事は、黒いローテーブルの上でとる事が多い。

 山縣は、僕がそろえた皿や箸、グラス類に文句をいう事も無かったので、現在は僕とそろいの品を用いている。あまり物品には、こだわりがないのかもしれない。

 少し早いが、僕も急いで戻ってきたため、昼を抜いていたから、一緒に食事とした。

「いただきます」
「いただきます」

 僕達の声が重なった。その後手を合わせ、箸を手に、僕はまず、豚肉を口へと運ぶ。じゅわりとしみ込んでいた煮づゆが、口腔に香りとともに広がる。我ながら上出来だ。

「美味しい?」
「おう。朝倉の肉じゃがは、最強だよ。美味い」

 僕はその言葉に満足した。山縣はいつも、料理や掃除、洗濯をはじめとした僕の家事能力については、惜しみなく褒めてくれる。

 ……そんな時は、嬉しくもあり悲しくもある。
 僕でなく、ハウスキーパーの方を雇おうかと、何度か考えた事すらある。
 だが、探偵福祉士として、これは助手である僕の仕事だと思いなおした。

 こうして食後僕は、山縣がシャワーを浴びに行ったので、お皿を食器洗い機に入れてから、洗濯機をまわし、絨毯には掃除機をかけた。一棟まるまる我が家なので、生活音を気にしなくてよいのが救いだ。

 一階が駐車場、二階が探偵事務所、三階が事件資料庫、吹き抜けにして螺旋階段で繋いでいる四階から六階までが居住スペース、七階が書庫だ。八階は屋上で、一応ヘリコプターが発着できる。僕の生家の持ち家の一つだった。都心に近いこのマンションは、交通の便もよく、近隣のショッピングモールにも近い。

 一仕事終えてから、僕は珈琲を淹れて、ソファに座りなおした。

 正面のチェストの上には、僕が買ってきた花がいけられている。
 僕は花が好きだ。

 そしてタブレットを起動し、『事件・犯罪マッチングアプリ』を開く。そこには、様々な依頼が並んでいる。警察機関からの依頼も多いし、一般市民からの迷子犬捜索の依頼も数多い。依頼にも難易度別のランキングが存在している。

 僕は何気なくテレビをつけた。探偵は人気職なので、たびたびメディアに登場する。

 今も丁度、難易度の高い殺人事件を解決したとして、不動のAランク探偵である御堂皐月とその助手の高良日向が、報道陣に囲まれている光景が流れ出した。僕は、ぼんやりとその映像を眺めていた。


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