8 Caseトマス⑧
隣国の皇太子妃メリッサと思しき、クジャクの仮面をかぶった女の従者と話をしていた男が、第三王子の横に戻ってきた。
「了承していただけましたよ。少々金はかかりましたがね」
「金などなんとでもしてやる! どの部屋だ」
「部屋は必要ありません。大勢に見られるのが好みだそうで」
「ふふふふっ! とんでもない変態だな」
「殿下もでしょ?」
「いいから早く連れてこい」
「道具は準備してあります。こちらの縄と鞭をお使いください。この縄にも鞭にもガラス粉を付着させていますから、お楽しみいただけるかと」
「気が利くな」
「ありがとうございます。くれぐれも顔と腹はダメです。いいですね?」
「何度も言うな! 早く連れてこい!」
サシュが女の方を見ると、従者が頷いて女と一緒に歩いてきた。
女は顔を紅潮させ、息がすでに荒い。
「帰りのドレスは馬車に準備してございますので、お好きになさってください」
女の従者が蝙蝠の仮面の下から静かに言った。
「そうか」
第三王子は女を舐めまわすように見て、徐にドレスを引き剝がした。
その体にはすでに数本の縄の痕が赤く残っており、この女の性癖を如実に物語っている。
「名前は? なんとお呼びしましょう? レディ」
女は剝き出しになった胸を隠そうともせず言った。
「メリッサ……縛ってください」
「メリッサと呼んでいいんだね?ああ、メリッサ! なんと美しい。その柔らかく張り出した腹が……凄いな……触るだけならいいか?」
第三王子が蝙蝠仮面の従者を振り返った。
「少々なら良いですよ。殺さないでくれたら大丈夫です」
従者が肩を竦めながら言った。
その隣に立つサシュが蝙蝠を見ながら言う。
サシュの仮面は鶴だ。
「大丈夫なのか?」
「ああ、慣れておられるから大丈夫だよ。殿下は妊娠を喜んでおられないんだ。本人が死なないで流れるなら上出来じゃないか?」
「俺は知らんぞ」
「俺も知らん」
わざと第三王子に聞こえるように言うと、二人はクスっと笑った。
その会話を聞いていた第三王子は思った。
(これはかなり自由にできるということだ。流れてもいいと? 最高じゃないか!)
第三王子は興奮のあまり大量の汗をかいていることに気づいていない。
そして自分たちにスポットライトが当たっていることも分かってはいなかった。
スポットライトの影に隠れながら鶴と蝙蝠が目を合わせた。
「サンク、蝙蝠にした意図は?」
「これしか残ってなかったんだ。サシュは鶴?なぜ?」
「一番上に置いてあったから」
「ははは! おお、そろそろ溶けて来たねぇ」
「水に溶ける紙なんてよく思いつくよな」
「ユイットの発明はなかなかニッチなところを攻めるから」
「っふふ。あいつも変わってるからなぁ」
二人の前では溶けた仮面で顔を赤く染めた第三王子が、全裸で素顔をさらしながら縄を操っている。
「凄いスピードだ」
「捕縛の才能って……つぶしがきかない無駄な技」
「あの女、名前なんだっけ?」
「トマスの母親か? 知らん」
メリッサを縛り終えた第三王子は、満足げな顔をした。
「メリッサ、どうしてほしい?」
「叩いてください」
第三王子は従者から渡された鞭をメリッサの背中に振り下ろした。
目を見開き、苦痛に顔をゆがめるメリッサ。
「痛いか?」
「叩いて下さい……叩いて下さい」
「いいぞ! お前は最高だなメリッサ」
いつの間にか客たちが囲んでいることに気づきもせず、第三王子は鞭を振り続けた。