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05・そして勇者は冒険を開始する

「ち、ちょっと、待ってくださいよ!?魔王を倒すってなんですかっ!?
普通に嫌なんですけどっ!!」

マジで何言ってんのよ、この人!?

冗談じゃないぞっ!

「じ、自慢にはなりませんけど、俺の身体能力は人並みの平均より
以下で更にコミュニケーションも全く取れやしない、モブキャラさん
なんですよ!そ、そんな俺が勇者?ホント無理ですって、無理無理っ!!

絶っ対に無理っ!

出来る訳がないじゃん!

「うふふ、大丈夫大丈夫。きっとなんとかなりますって何故なら
貴方は勇者様なのですからっ!」

「何故なら貴方は勇者様なのだからっ!......じゃねぇよっ!!」

その言葉に何の説得力も脈絡もないじゃねぇかっ!!!

「こいつ......ひょっとしてこの女神様、ポンコツなのか?」

「ちょっとあなた!?い、今わたくしの事をポンコツ呼ばわりしま
したわねぇっ!?」

あ、やば!声に出ちゃってたっ!?

「まったく......えっと、貴方がさっき仰っていた身体能力の件ですが、
そこはご安心して下さいな。勇者になりさえすれば、その問題は無用の
ナッシングですので。何せ、勇者というジョブはわたくしの恩恵と贔屓を
思いっきり受けたジョブです。ハッキリ言いまして、そんじょそこいらの
上級ジョブの力や魔力なんぞ、尻尾巻いて逃げるくらいのレベルですよ!」

メリアーナは鼻息荒くをフンスと吐きながら、俺の不安に思っている
要素を矢継ぎ早の言葉で取り除く。

そして軽く息を吸って吐いてをした後、呼吸を整えて話の続きを始める。

「更にこの勇者ジョブには、まだプラス要素があるんですよ!それは
ですね、なんと他のジョブでは習得することの叶わない勇者専用の
超~強力なスキルや、超~強力な魔法をゲットする事が出来るんです!
うふふ、やったねっ♪」

更に勇者のジョブの凄さを語り終えたメリアーナは、ドヤえっへんと
ふんぞり反って、したり顔を見せる。

「上位ジョブより上で、超強力なスキルと魔法......か」

だとしたら俺でもやれるかもしれないな!

......って、いやいや。

やっぱ無理無理っ!

モブキャラな俺が、秀でた者のトップな存在の勇者だなんて。

お門違いも良い所だよ!

やれる訳がないっ!!

「でも......な」

俺は、ふと考える。

「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」

...と。

そして俺は、更に深く考える。

「これはターニングポイントで、あいつの事を完全に吹っ切る
絶好のチャンスなのでは!?」

......と。


そうだよな......例え勇者になる事を断って、元の世界に帰れたと
しても、きっと今まで通り、あいつの事でダラダラと未練がましく
時を過ごすのが目に見えてくる。

「......だったらさ。そんな負け犬根性で元の世界を生きるよりも、
勇者の道を選択した方が、きっと充実した人生だよなっ!」

迷いを振り払うかのように拳をグッと強く握り締めると、俺の表情は
決意新たな希望に満ちた表情へと変わっていく。

「おお、その表情!もしかしてヤル気が出てきましたか、勇者様♪」

「......うん、そうですね。ヤル気はガシッと出てきたかもしれませんね!」

俺はニコッと微笑みを浮かべ、メリアーナを見る。

「おお!何だか良く分かりませんが、勇者様のお心に心境の変化が
あって本当に良かったです!これで創造神から長~~いお説教を
食らわずに済みそうですよ♪」

俺の決意の言葉に、メリアーナは安堵でホッと胸を撫で下ろす。

メ、メリアーナ様、心の底からの安堵した表情をしているな。

「創造神の説教って、よっぽどなんだろうな.......」

......はは。

「で、メリアーナ様。俺は一体どんな感じでメリアーナ様の世界に
行くんですか?流石に初っぱなから、ろくでもない人物と接触する
展開はご勘弁願いたいんですが......」

ラノベなんかで良くあるじゃん。

クソみたいな王とか王女、そして貴族共に理不尽に利用される展開がさ。

「あ、それは心配ご無用ですよ、勇者様!貴方が今から召喚される
場所はわたくしを崇拝する人物達がいる城です。したがってあなたを
蔑ろにする事は絶対にありえませんので♪」

「そ、それが本当なら、安心なんですけど......」

......で、でも、

そんなドヤ顔で絶対なんて言われちゃうと、何かフラグっぽくて物凄く
嫌な予感がするんですけど!?

「コホンッ!え~ではでは、勇者!早速ではございますけど、地上への
召喚を開始させていただきますねぇっ!」

「――へ!?メ、メリアーナ様!?俺まだ勇者のスキルと魔法の説明を
ひとつも受けていないんですけ――――」

「わたくしの世界をどうかお救い下さいませ、勇者様!切に祈って
おりますっ!」

「ちょっとぉぉぉおっ!?切に祈っております......じゃねぇぇぇえっ!」


勇者の力をちゃんと説明してくれやぁぁぁぁあっ!!

無知識で危険な異世界を旅したくないんですけどぉぉぉぉおっ!?


「クソォォオッ!やっぱこの女神、ポンコツの駄女神だぁぁぁぁああっ!!」


こうして俺は勇者の持つスキルや魔法の説明を全く受ける事なく、知識なしの
状態で地上へと転移させられてしまうのであった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 



「......おっと、いけない。言い忘れがございましたわ!あの世界には
貴方以外にも勇者様が召喚されていますので、その連中と仲良くなり、
一緒に魔王を退治して下さいねぇ~♪」

メリアーナが既に転移して聞いていないだろう溯夜に対して、届く事の
ない追加情報を伝えるのだった。

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