06・帰ってきた勇者
「か、帰ってきたんだ、俺......」
メリアーナによって異世界に勇者として召喚された俺は、他の勇者達と
一緒に異世界に巣食う魔族達と戦った。
......そう、
―――戦って、
―――戦って、
―――戦い抜いた。
その間、良いも悪いも、酸いも甘いも、色んな事があった。
―――素晴らしくも良い出会い。
―――二度とゴメンと思った嫌な出会い。
―――虚空に陥った悲しい別れ。
―――希望を紡き繋いた別れ。
そんな経験が心と身体に刻まれる度、俺の不甲斐なくもみっともない
価値観が少しずつ少しずつと変わっていく。
そう......恵美の事で落ち込んでいるのがバカらしくなるくらいに。
それから俺達がこの世界に召喚されて、五年と数ヶ月の月日が
過ぎ去ろうとしていたその時、
俺と他の勇者達は魔族の王である魔王を辛勝ではあるものの、
見事討ち倒す事に成功した。
―――そしてその後、
今の状況......つまりは元の世界へ無事に帰還を果たす事となった。
「......正直いうと、もうちょっとあっちの世界に残っていたかった
んだけど......」
でもメリアーナが言うには、魔王を倒すと勇者は強制的に元の世界に
戻されてしまうのだということだった。
流石にそれはこちらの都合を考えてない、一方的な言い分じゃないか
と愚痴と不満をこぼすと、メリアーナが申し訳ないという表情を見せ
ながら強制帰還されるその理由を語る。
メリアーナが言うには、あの世界は勇者と魔王...そのどちらかがいなく
なると、世界のバランスが狂い、不安定な状態になってしまうらしい。
バランスが狂っちゃう......か。
でもそういう理由があるんだったら、しょうがないかな。
でもあっちの世界にはお世話になった人達が沢山いるしさ。
そんなみんなに迷惑を掛ける訳にはいかない。
「理解もしたし、納得もした。でもさ、それでも俺はあっちの世界で
お世話になったみんなとは別れたくなかったな......」
それにせっかく平和になったんだから、あの世界をのんびりゆったりと
旅行もしたかったよ。
俺は異世界への未練に思いふける。
「まぁだが、パーティメンバーだった他の勇者達とは、逆に別れられて
清々したけどなっ!」
それは何故かと問われると、答えは簡単至極。
勇者パーティのメンバーにはさ『剣聖王』の勇者のアキラってのがいてね、
こいつがこれがまた、超のつくイケメンさんでさ、
そして他の勇者メンバーは二人とも女の子だったんだけどよ、
こいつらも誰が見ても超のつく美少女達。
そんな構成だった勇者パーティ(俺を除く)は、美男美女の集まりで、
性格もみんな明るく気さくな性格の陽キャラだった。
でさ、このイケメンと美少女達のみなさんが、四六時中、俺の前で
和気藹々とイチャイチャしやいやがったのさっ!
陰キャラの俺かそんな陽キャラサークル内に入っていける訳もなしで、
人々から声援もあいつらばかりが受け、俺はいつもかやの外。
「ぐぬぬ...ああもう!ホント思い出すだけで、ストレスストレスの
毎日だったぜぇぇいっ!!」
このアキラがチャラクソ男だったらさ、こんな居心地のクソ悪い
パーティとはさっさと見切りをつけて別れ、ひとりだけで気楽に
魔王退治と、洒落し込みたかったんだけどよ、
こいつが残念な事に、このアキラさんスッゴク良い奴でさ。
パーティメンバーの女性共は勿論のこと、
俺の事も腹黒い理由もなく、命懸けで守ってくれてるんだよ、こいつ。
そして性格もまた、分け隔てない性格でさ、
例え言うなら、正義感溢れる?
そんな頼れる人物だったんだよ、このイケメン勇者のアキラって奴は。
だがね!
―――それはそれ!
―――これはこれなのよ!
どんなに優しかろうとも、頼りになろうとも、
目の前で朝昼晩と1日中イチャイチャされてみろよ、
幾ら性格に悪害がなくとも、こちらとしてはたまったもんじゃないのさ。
「それによ!こちとら浮気された彼女の相手がイケメンだと聞いていた
から余計に苛つきが増したんだよねぇぇぇえっ!!」
あの当時の俺は、恵美に浮気をされたショックから立ち直れていなかった
せいもあり、余計にこいつらにストレスがたまった事を思い出す。