オルノー看護学校
「マリア・カーサ」
「はい」
「レイリア・ハーパー」
「はい」
「キャリー・ボワソン」
「はい」
「アリッサ・リンドー」
「はい」
名前を呼ばれた者達が、返事をして次々とその場に立つ。
「以上、四名が今期の卒業生である。おめでとう。よく頑張った」
オルノー看護学校の校長、ライアン・オルノーが四人に向かって微笑んだ。
「君たちはオルノー看護学校の栄えある第二十期生として、ここに卒業証書を授与する。厳しいこともあっただろうが、君たちの努力はここに実った。二年間お疲れ様。卒業後はそれぞれ別々の道を歩むことになるが、ここで学んだことを存分に活かして頑張ってもらいたい。本日はおめでとう」
オルノー看護学校は、ブロジェースロブエン国の王室専属医だったアルフォンソ・オルノーが始めた看護学校で、二百年の歴史がある。女性が勉強して手に職を付けるということが画期的だった時代で、最初は受け入れられなかった。
それを憂慮した時の王が卒業後の就職先を保証したことにより、それなりに入学希望者は後を絶たない。
しかしながら、その課程はけっして生易しいものではない。入学者には広く門徒を広げている学校も、卒業はなかなか難しい。その厳しさに途中で辞めていく者も多い。
また、まだまだ女性の幸せは伴侶を得て結婚することだという考えが主流であり、わずか二年の間に結婚が決まって辞めていくパターンもある。
入るのは易し、しかし無事卒業証書を手に入れる者は少ないのが現状だった。
「アリッサ、本当に騎士団で働かないの?」
「ええ」
卒業証書授与後、ささやかながら立食パーティで、レイリア・ハーパーがアリッサに問いかけた。
看護学校創設時、国王が卒業生の就職先として斡旋した先は騎士団や王宮などだった。
王宮では王妃や王女、皇后など女性の王族に仕える人材として、騎士団は騎士団専属の医務室勤務で、どちらも独身女性には人気の就職先だった。
王宮務めはたとえ身分は平民でも、文官としてそれなりの地位にいる者がいる。
見初められれば玉の輿である。
騎士団も家柄も身分も申し分ない者が多く、女性達の憧れの的であり、そんな彼らの近くで働けるということで、これまた人気の就職先だった。
数こそはすくないものの、他にも就職先はある。
個人の診療所だったり、お金持ちの専属として雇われるというものだった。
前者はもともと親が医者だったりして、その手伝いなどをするというものだ。
後者はもっと数こそ少なくなる。専属ということで拘束される時間も多く、看護師というより小間使いのようにこき使われることが多いからだ。
アリッサの就職先はその後者だった。
「アリッサは同期で一番成績も良かったし、誰より資格があると思うけど」
「ありがとう。でも、騎士団の人って苦手なのよね」
「前から言っていたわね。実習で騎士団の訓練に行ってもいっつも陰に隠れていたものね」
看護学校は座学と実技以外に実習が必須である。実習先は王宮や騎士団の訓練地になっている。
それを避けると資格が得られないため、仕方なく参加したのだった。
「でもアリッサの治療は的確だったし、結構評判良かったのにもったいない。騎士団の人たちからも人気だったでしょ」
「そういうのはいいわ。私は結婚相手を見つけたいわけじゃないもの」
「一生結婚しないつもり?」
「そういうわけじゃないけど・・結婚しなくちゃいけないから結婚するとかはしたくないの」
アリッサはそう言って悲しそう笑った。
彼女とて、結婚に対して夢を抱いていた頃はあった。
しかし結婚が必ずしもゴールで無いことを知っているので、彼女たちのように思えないだけなのだ。
林藤 有紗としても、ブリジッタ・ヴェスタとしても、結婚ということに対して彼女は苦い思い出しか持っていなかった。