299章 治療会
バナナを配り終えたあとは、住民の治療に力を注ぐ。
地震による負傷者は多く、すぐに終わりそうになかった。全員の治療を終えたときには、2日くらいは経過すると思われる。
「アカネさん、調子は問題ないですか?」
「ソラさん、問題ないですよ」
「アカネさんは働きすぎです。少しくらいは、休んだほうがいいです」
地震発生から、2~3時間の休憩にとどまる。1日20時間労働の会社よりも、過酷な労働下に置かれている。
「休憩はあとでとれますけど、失った命は取り戻せません。住民の治療を最優先にします」
魔法を使える女性も、死者を復活させることはできない。住民があの世に旅立つ前に、治療をしなくてはならない。
アカネの目の前に、サクラが現れた。サクラは宿屋の娘である。
「アカネおねえちゃん、膝に大けがをしたの」
ズボンをめくると、大きな傷跡が残されていた。
「サクラちゃん、回復魔法をかけるね」
効果はすぐに現れ、膝は元通りになった。
「アカネおねえちゃん、ありがとう」
一人の子供の笑顔を見るだけで、とっても救われるように感じられた。子供スマイルからは、∞の癒し効果を得られるようだ。
次に並んでいたのは、7歳くらいの男の子だった。付き添いとして、17歳くらいの母親が隣にいた。
「アカネ様、息子の右耳を直してください」
「わかりました。すぐに治療します」
回復魔法をかけると、男の子の耳は元気を取り戻す。
「ママ、耳が聞こえるようになったよ」
17歳くらいの母親は、深々と頭を下げる。
「アカネ様、本当にありがとうございます」
「セカンドライフの街」の日は暮れようとしているのに、列から離れようとする人間は誰もいなかった。一秒でも早く治療を受けたいという、心の声が聞こえてくるかのようだった。