110章 CM出演以上の衝撃
ミサキがコマーシャル出演の話を伝えると、シノブの二つの黒目が小さくなった。
「ミサキちゃん、コマーシャルのオファーをされたの?」
「うん、そうだよ」
CM出演は遠い世界だと思っていた。それゆえ、夢を見ているように感じられた。
「CM依頼内容はどうなっているの?」
「アイスクリームを食べるというものだよ」
シノブは小さな瞬きをする。
「ミサキちゃんに、うってつけの依頼内容だね」
アイスを食べる適任者は他にもいる。ミサキを選ぶ理由がわからなかった。
シノブは瞳を輝かせた状態で、二つの手を握ってきた。
「ミサキちゃん、有名人の仲間入りだね」
ミサキは複雑な表情を浮かべる。
「一人の一般人として、自由に生きていきたいの。誰かに注目されたいわけじゃない」
有名人になると、プライベートを干渉される。自由な人生を生きたい女性にとって、最強の支
障になりかねない。
「ミサキちゃんはコマーシャルに出なくても、超有名人さながらだよ。存在を知らないものは、ほとんどいないレベルだもの」
99パーセントの利用客は、ミサキの名前を知っている。他の従業員と比較すると、知名度は抜群である。
「ミサキちゃんに会うためだけに、店を訪ねる人もたくさんいるよ。一部のお客様からは、勤務予定表を知りたいといわれた」
ミサキは強い口調で言い切った。
「プライバシーの侵害なので、絶対にやめてください。守ってもらえなかった場合については、
すぐに退職します」
お客様商売だとしても、他人にスケジュールをさらすのは、許容範囲を超えている。一人の従
業員として、絶対に受け入れることはできなかった。
「わかった。ミサキちゃんの意思を尊重する」
「シノブちゃん、絶対に守ってくださいね」
ミサキの圧の強さに、シノブは一歩後ろに下がった。