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その時……
ヒラリと、1枚の写真が救急箱の蓋の部分から落ちてきた。
「あ、それ……」
写真に写っていたのは、30代くらいの男性と10歳前後の女の子が、公園の桜の木を背景に笑顔で見つめ合っている姿だった。
「この女の子は、菜摘さんですか?」
「うん……そして隣にいるのがお父さん。私がまだ小学5年生の頃ね。…ちょうど今の隼くんと同い年の頃だ。」
「すごく楽しそうですね。」
「楽しかったよ。……毎年、そこの公園に咲く桜の木を見に行ってたの。お父さんは自然とか写真が大好きな人でね。…毎年毎年、同じ桜の木の写真を撮ってたの。それでお父さんっ子だった私も、毎回お父さんについていってたんだよね。」
「お父さんも菜摘さんのこと、すごく大事にしてるんですね。」
「うん……お父さんだけは、大事にしてくれてた……。お父さんだけは、私を認めてくれてたの……。でも………私が中学に上がる頃、ガンで死んじゃった……。」
最後の方、菜摘さんの声は震えていた。
言葉が終わると同時に、両手で顔を庇って鼻を啜る音がした。
「菜摘さん……」
「ごめんね隼くん……突然こんな……」
「謝らないで下さい。僕の方こそ、辛いことを思い出させちゃってごめんなさい。」
「ううん……辛くないの。お父さんの思い出は、辛くないの……。だけど………」
少しずつ啜り泣く声が大きくなっていく。
声だけでなく肩も震わせた菜摘さんは、止まらない涙の合間に確かにこう言った。
「私の唯一の味方だったお父さんがいないことだけが、今は辛いの……」