4
「くれるの?……ありがとう隼くん!嬉しいな」
菜摘さんが少し弾んだ声を出した。
彼女の笑顔は、僕の心も自然と解れていくような雰囲気を持っている。
自分がした行動で、こんなに笑顔になってくれる人なんていなかった。
普段はむしろ、蔑む目や好奇的な目、そして憐れむ目ばかりが体にまとわりついていたから。
菜摘さんの笑顔は、それら全てを一瞬で体から引き剥がしてくれるような力を持っているような気がした。
僕はそんな彼女に対しては、不思議と自分から心を開いているのが分かった。
普段は、なるべく誰とも関わらないようにしているのに、だ。
それから僕達は、10分ほどお互いについて話した。
僕の家はここからすぐ近くで、姉が2人と妹が1人いること。家族がみんな仲良しなこと。
週に3回、地域のテニスクラブで他校の友達とペアを組んでいること。
菜摘さんは、年の離れたお姉さんがいるけど、あまり仲がよくないと言っていた。
この近くにあるアパートに一人で暮らしていて、少し前まで中学校の先生をしていたけど、今は休職していること。
3ヶ月ほど前からこの公園で、僕達の通う小学校の児童たちと遊ぶことが生き甲斐だということ。
国語の先生をしていたから、本が好きで、その中でも特に夏目漱石のファンだということ。
出会って2日目だったけど、僕はお互いのことを話すのがとても楽しかった。
自分のことを話している時、こんなに楽しいのはいつぶりだろうか。
そして菜摘さんについて、もっと知りたいと思うことも不思議だった。
僕はもっともっと菜摘さんと仲良くなって、友達になりたいと思ったのだった。