280章 カスミのトイレ事情
カスミは5分ほどで、トイレから出てきた。
「トイレの設備がすごいですね」
利用する機会がないので、どれくらいの機能なのかわからない。
「排泄物を水で流せるのは、とっても新鮮ですね」
カスミの話を聞いて、目がきょとんとなった。
「トイレのあとは、どうしていたの?」
カスミから帰ってきた話は、アカネにとって予想外だった。
「トイレを終えたら、排泄物を袋に入れます。そのあとは、トイレゴミ専用のゴミ箱に足を運んで、捨てていました」
自分の排泄物を手にしながら、人前に出ていく。想像するだけで、恥ずかしさ、気持ち悪さを感じることとなった。やらなくてもいいなら、絶対にやりたくない。
「気分は悪くならなかったの?」
「最初は手に持っているだけで、気分が悪くなったこともありますね。途中からは慣れてしまったのか、気にすることは減りました。多くの人がやっているということもあって、違和感もなくなったように思います」
ミライ、ココア、シオリ、コハル、サクラ、ミナ、フタバ、アイコなども同じようにしていたのかな。
「アカネさんは、トイレを使用しないんですか?」
「私はトイレに行くことはないよ」
「トイレに行かないのに、あの設備はもったいないですね」
トイレを使わない人間が水洗トイレで、大多数の住民が排泄物をゴミ箱に捨てる。どのように考えても、おかしすぎる。
「来客用としては、十分に活躍しているかな」
ミライ、ココア、コハル、カスミなどに使われた。室内トイレとして、立派な役割を果たしている。
「私も水洗トイレで生活したいです」
快適さになれることによって、不便な生活を送れなくなる。便利さになれるということは、不便な生活に戻れないことを意味する。
カスミは何かを思い出したかのように、手を叩いた。
「大量の付与金の一部を利用して、家庭内のトイレを設置すると聞きました。私の家においても、水洗トイレを使えるかもしれません」
水の浄化によって、6000億ゴールドの付与金を収めたことになる。各家庭の水洗トイレをつけるのに、十分な予算となる。
「アカネさんがいるだけで、ハッピーな生活を送ることができます。本当にありがとうございます」
仕事をすればするほど、住民の生活水準はアップする。喜ばしいことなのかもしれないけど、腑に落ちない部分もあった。