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38.果てしなき遠き“不死”の道、ニンジンハンター

 行き着いた場所は、田中・昌樹探偵事務所。

 理依は気を利かせて、本人が一番安らげる場所を選んでくれたのだ。

 自分の事務所で介抱される昌樹。

「すみませんね、サンジェルマンさん。急に気分が悪くなってしまって」
 上体を起こして頭を下げるも、フラフラとソファーに横たわる。

「いいのよ。長時間Ag(エイジ)を出し続けていたせいね。いい?彼を出している時間が長引くほど貴方の生命力は消費されてゆくの」
 今更ながらの御忠告。

 そんな大事な話なのに、当のエイジも教えてくれなかった。知らなかったのかな?

「んで、これからどうするんスか?」
 冷蔵庫へと脚を運びながら理依が訊ねた。そして「探偵さぁん、冷蔵庫の中、空っぽじゃないですか」

「長期間留守にするのに、買い物とかするかよ」
 仰向けになったまま反論。

「いんや、突然留守にしたんでしょ。なのに空だなんて、普段から空だったんじゃないですか」
 製氷層も開けて中を確かめる「もう、氷も無いじゃないですかぁ」

 サンジェルマンは静かにソファーに座りこんで。

「回復したら、探偵さんには異世界へ行ってもらいます」

「あ、はい。…え!?」
 理依とのやり取りの中、サンジェルマンが言った言葉に、昌樹は思わず訊き返した。

「サンジェルマンさん、今、“異世界”て言ったのですか?」

「ええ、そうよ。カリオストロの狙いは、マンドレイクのはずだから」
 また知らない言葉が出てきた。

「マン?ドレイク?」
 聞いた事も無い。

「こちらの世界には生えていない植物で、そうね…高麗ニンジンみたいなものよ」
 例えてもらっても、今一つイメージできない。

「それが、あの婆さんの狙いだっていう根拠は何ですか?」
 結局分からないまま話を進めるしかない。

「第二段階で必要になるもの」
 答えてサンジェルマンは、二人が話に全く付いてこれていない事に気付いた。

「第一段階は、すでに終了しているわ。つまり、継代ホムンクルスを卵子から幼体へと変態させる事。これで、母体へと移せば確実に妊娠できる」
 子宮の中で変異させるのではないのか…!?

「母体って、誰に!?」
 そんな無茶な手術をして大丈夫なのか?心配になる。

「代理母として生成されたホムンクルスによ。おそらく、カリオストロも彼女を用意しているはず」
 頭がクラクラしてきた。そもそもホムンクルスて何?

 そんな二人の表情を見て、サンジェルマンは自らの失態に気付いた。

「話す順序が間違っていたわね。ホムンクルスとは、正規の手続きを無視して造られた人工生命体。意志を持たず、特定の作業のためだけに生成されるの。姿こそ人間なんだけど、与えられた情報量はごく限られたもので、子を宿すだけだったり、見張りをしていたり等々、およそ人間とは言えない程度の事しかできないの。しかも彼ら彼女たちの寿命は2年も無いわ」
 まさに道具と分類するしかない。

「で、第二段階ってヤツが妊娠て訳か」

「その通り、そして第三段階はホムンクルスとして13年間過ごした後に、賢者の石ごと移植して魂を引き継ぐの。だから、それまでの間に、私が代々聞き伝えてきた事や、私が体験した事を覚え込んでもらいます」
 魂を引き継ぐだけで、記憶や体験したことまでは引き継がれないという訳だ。何とも根気のいる不死だこと…。

 かつての“詰め込み世代”みたいなものか。

「何だか空しいッスねぇ。魂だけを引き継ぐだなんて」
 これが世界を戦争に巻き込んだ“不死”の正体だと思うと、何だか遣り切れない。

「でも、2年も生きられないホムンクルスに13年もかけて引継ぎを行うなんて…」

「だからマンドレイクが必要になってくるのよ。貴方達が奪われた継代ホムンクルスの幼体にマンドレイクから抽出したエキスを与えると、人間と同じ寿命を得る事ができるの」
 説明を聞くに、女王蜂になる幼虫にだけ与えられるロイヤルゼリーを思い出す。

「それが無ければ、継代ホムンクルスは1週間も経たないうちに、ただのホムンクルスに戻ってしまうのよ。だから、カリオストロは継代ホムンクルスを人質にして、私にマンドレイクの採取を求めてきた」
 長生きするのも大変だ。不死を得るために、時間との戦いを経なくてはならないとは。

「異世界か…」
 どんなところなのか?想像すらできない。

「次の満月の夜に、ゲートが開くわ。それまでに準備を整えてちょうだい」


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