31.手詰まりの二人、二つ名の老婆
無言の制裁を受けるスノーは堪らず「フィーエ!戻れ!!」
護りに入った。
未知の巨大昆虫(フィーエのこと)が暴れ回ったことで、人々は逃げ惑い、今は昌樹とスノーの両陣営の4名(フィーエも含む)しかいない。
俊敏なフィーエはスノーを守るべく彼の元へ、それを負うエイジも必然的に昌樹の元へと戻った。
仕切り直しとなった。
「マスター。先ほどからロッカーに目をやり過ぎだ。ヤツらに『
エイジが告げるも、事実、スノーはどのロッカー群に昌樹が荷物を預けているのか、すでに把握している。
フィーエのチェーンソーならば、容易くロッカーの鍵部分を破壊できる。
もはや、この場で死守するしかない。
まさに背水の陣。
……。
………。
こう着状態に陥った。
両陣営が睨み合って、かれこれ10分が過ぎようとしている。
“即死攻撃”を持つエイジではあるが、当たらなければ意味が無い。
それを踏まえて、ゴキブリ並みの俊敏性を得たフィーエに太刀打ちする術を、エイジは持ち合わせていない。
こうなれば警察組織に頼りたいところ。しかし!
警察組織というものは、不思議と待っていると、なかなか到着してくれない。
事件が発生して15分以内に到着する事は、現実的に希だったりする。
昌樹とエイジ、二人してフィーエに向かって走り出した。
現在、脅威となっているのは、フィーエのみ!丸腰のスノーではロッカーの鍵部分を破壊するのも一苦労するこどだろう。放っておいても問題無い。
決して殺しはしない。
これだけ多くの人の命を奪ったのだ。
スノーの人生の“4分の1”奪ったとしても、罪悪感は感じない。それだけは確信が持てる。
昌樹は走りながら路上に転がっているペットボトルを拾い上げると、間を置かずしてフィーエに向かって投げつけた。
いとも簡単にフィーエは投げつけられペットボトルを空中で切断!すると、液体がPAN!!と大きな音を立てて破裂!飛沫を周囲にまき散らす。中の液体は炭酸飲料だったようだ。
同時に飛び込んできたエイジがナイフダガーで斬りつけようと。
それに反応してフィーエも跳ねた…かに見えたが。
両者共にその場で滑って転んでしまった。
ぶちまけた炭酸飲料が床を濡らして滑りやすくしてしたのだ。
(雨の日は滑りやすいので駅構内では走らないよう、お願い致します)
転ぶ両者を目の当たりにした昌樹は、駅の注意書きはきちんと守らねばと、固く心に誓うのであった。
「間抜け共がすっ転んでじゃれ合っているよ。フォフォフォ」
遠くからかすれた老婆の声。
昌樹とスノーは声の方へと向く―。
瞬間!二人の目は大きく見開かれた。
そこには肩部が膨れたブルー色のスーツにミニスカート。そしてキンキーブーツと、全力で時間に逆らっている見た目痛々しい老婆の姿があった。
「何じゃ?ありゃ」
思わず漏れ出た。
「ば、婆さんムリし過ぎ…」
スノーの本音も昌樹と大差ない。
しかし、そんな二人は見落としていた。
彼女が杖のようについて歩いている“モノ”を。
それは、
「婆さん、危ないから下っていてくれ」
昌樹が注意を促すも、老婆の歩みは止まらない。
そんな昌樹を尻目にスノーは舌舐めずりすると。
「フィーエ。丁度良い。その婆さんの血を吸ってパワーアップしろ」
スノーの命令を遂行すべく、老婆へと飛びかかる。
老婆を護ろうとした跳び出したエイジであったが、フィーエの俊敏性に追いつけない。
カラーン…。
金属音が校内に響き渡る。続いて。
カーン。と何か固いものが床を滑る音。
「マジかよ…」
昌樹は絶句した。
老婆が襲い来るフィーエの
「ま、まさか…お前もエレメンツ!?」
スノーが呟くように訊ねた。
老婆は長い金髪を跳ね上げて答えた。
「どうだかね。かつては
老婆の髪が紫色へと変化してゆく。
「今はカリオストロ。そう名乗らせてもらっているさね」
「え?えぇーッ!?」
スノーの、あまりの驚き様に、思わず昌樹も「えぇーッ!!?」つられて驚いた。