215章 やっと起きた
コハルは目を覚ました。
「アカネさん、おはようございます」
現在の時刻は夕方の6時である。「おはようございます」という、時間はとっくのとうに過ぎている。
「コハルさん、体の調子はどう?」
「たくさん眠ったからか、少しだけ楽になりました」
28時間近い睡眠を取って、少し楽になる程度。慢性的な睡眠不足に陥っていると思われる。
「コハルさん、夕食を食べよう」
「夕食ですか?」
「時刻は夜の6時だよ」
コハルは素っ頓狂な声を発する。
「えーーーーーーーー」
コハルは時刻を確認したあと、頭を何度も下げていた。
「アカネさん、大変失礼しました」
「ここにいるときは、好きなだけ眠っていいよ」
「家事とかをしないと・・・・・・」
「やることはほとんどないから、できないときはやらなくてもいいよ」
ほとんどを自動でやるため、人の手を煩わせることは少ない。
「コハルさん、おなかはすいていないかな?」
「とってもすいています」
28時間も食べなければ、おなかがすくのは必然である。
「今日の夕食はサーモンづくしだよ」
「昨日のサーモンですか?」
「ううん。今日のために、新しいサーモンを買ってきたの」
生物は腐りやすいため、翌日に提供するのは難しい。
「昨日のサーモンは食べられないんですか?」
「うん。生の食べ物は、すぐに腐ってしまうんだ」
切り込みを入れていると、空気に触れる表面積は大きくなる。空気に触れることで、食べられる期間は短くなる。
「そうなんですね・・・・・・」
「昨日のサーモンは熱を通して、おいしく食べたよ」
サーモンは生で食べられるし、火を通しても食べられる。どちらで食べても、とってもおいしい食材だ。
「焼いたサーモンも食べてみたいです」
「明日は焼きサーモンにするね」
「ありがとうございます」
コハルの腹の虫が鳴った。
「早く食べたいです」
「すぐに食べていいよ」
コハルは勢いよくサーモンをつかむと、小さな口の中に運んでいた。
「脂がのっていて、とってもおいしいです」
2つ目のサーモンを食べようとしている女性に、
「醤油をつけると、サーモンはおいしくなるよ」
と伝えた。
「醤油はどれですか?」
醤油を知らないことが、貧乏生活を象徴している。
「これが醤油だよ」
「黒い液体なので、とっても不気味です。これで魚がおいしくなるのでしょうか?」
「うん。おいしくなるよ」
コハルはしぶしぶ、黒い液体を投入していた。醤油を知らないものにとっては、不気味な液体に映るようだ。
コハルはサーモンに醤油をつけたあと、ゆっくりと口に運んでいた。
「醤油をつけると、いいアクセントになりますね。寿司で食べるよりも、サーモンだけで食べるほうがおいしいです」
コハルは食欲のスイッチが入ったのか、次々とサーモンを食べ進めていく。アカネはその様子を、静かに見守っていた。
サーモンはどんどん減っていき、残りは4切れとなった。
「白米を食べたいです」
「白米は炊飯器の中にあるよ」
コハルは歩いているときに、茶碗を地面に落とす。アカネは魔法を使用することで、落下の衝
撃を0にした。
「すみません。力が抜けてしまいました」
「コハルさん、どうかしたの?」
「封印されかけた記憶が、蘇ってしまいました」
腹部を刺された傷は、コハルの心を蝕み続ける。安泰な日々を過ごせるのは、いつになるのだろうか。