ルアと鳥さん その1
「ウル、美味しいですか?」
コンビニおもてなし7号店の遅いお昼休み。
お店の裏で、パラナミオがウルに餌をあげています。
ウルは亜人種族ではなく純然たる魔獣です。
まだ幼いので可愛い容姿をしていますが、どこからどう見ても狼さんなんですよね。
で、その狼姿のまま二足歩行をしてパラナミオの後ろをトテトテついて回っている様子が、なんとも言えず可愛いんです、はい。
この世界でペットを飼っていたり、友人として共同生活している人はそれなりにいます。
その大半は魔獣使いというスキルを持った人が、自らの使役魔獣として行動を共にしているケースです。
と、いうのも、野生の魔獣ってやっぱり危険なわけなんです。
成長も早くて、すぐに飼い主より大きくなることも少なくありません。
そして、魔獣は自分より小さい者を見下す習性を持っているものですから……まぁ、例外はあるみたいですけど、大半の魔獣は、自分が大きくなるにつれて小さくなっていくご主人様の言うことを聞かなくなっていって……そんなわけで、そういった魔獣に強制的に言うことを聞かせることが出来る能力を有している魔獣使い以外の人は、あまり魔獣と行動をともにはしていないそうなんです。
それでもやっぱり、魔獣と一緒に暮らしたいっていう人は一定数存在しているわけです。
我が家のウルも、その一例なわけです、はい。
当然、魔獣を飼育する際には決まりがあります。
冒険者組合に『魔獣飼育』の届出をしないといけないんです。
どこかの街の冒険者組合で登録しておけば、魔法で情報が共有されるそうでして以後はどこへ転居しても問題ないんだとか。
家畜として飼育している分に関しては届出は不要なのですが、その場合は商店街組合の方に『魔獣家畜飼育』の届出をしないといけなくなるんです。
ただ、コンビニおもてなしのように、スアの使い魔の森のような異世界で魔獣を家畜として飼育しているとか、行動を共にしているケースに関しては、
「そうですね……さすがに異世界は冒険者組合の管轄外ですので……」
「商店街組合としても関与出来ない案件ですです」
事前に冒険者組合と商店街組合に確認したことがあったんだけど、どっちの組合もそんな返答だったわけです。
まぁ、たまにこっちの世界にやってくるくらいは大目に見てもらうとして……こっちの世界に常にいるウルは冒険者組合に登録してあります。
冒険者組合で登録すると、登録済みの証として首輪をはめないといけません。
通常は、登録した際に冒険者組合が渡してくれる所定の首輪をはめるんです。
この首輪には、魔法が付加されていて、装置をかざすと、
・所有者
・所在都市
・名前
などのパーソナルデータが確認出来る仕組みになっているんです。
ウルも当然その首輪をはめています。
所有者は、成人者しか駄目ってことになっていますので当初は僕にしようと思ったんですけど、パラナミオも成人しましたので、
「よし、ウルのご主人様はパラナミオだからね」
ってなわけで、パラナミオを所有者として登録した次第なんですよ。
「いいですかウル、あなたの所有者は私なのです。改めましてこれからもよろしくお願いします!」
笑顔のパラナミオに、ウルも嬉しそうに
「きゃんきゃん!」
って鳴き声をあげながらパラナミオの周囲を駆け回っていたんです。
僕としては、ウルはペットというよりも同居人って感じです。
それは家族のみんなも一緒です。
なので、ご飯もお風呂も寝るのも常に一緒だったりします。
青犬狼のウルが、パラナミオを真似て二足歩行しはじめたのも、そうやってみんながウルに家族の一員として接しているからに他なりません。
スアの使い魔の森にいる、絶滅寸前だったところをスアに保護された魔獣達の中にも、そんな感じで自分のことを亜人種族と思い込んで行動している者が少なくなかったりするんですけど、これは保護者のスアや、スアの使い魔の森をスアの片腕として統括しているタルトス爺やキキキリンリンといった古株メンバーのおかげでしょうね。
◇◇
そんな中……
コンビニおもてなしでは、魔獣用の商品もあつかっています。
餌を食べるための容器。
これは汚れがこびりつきにくい魔法が付与されています。
おやつ用の小袋のお菓子。
クッキーやジャーキー系が主になっているのですが、ヤルメキススイーツ部門で製作をお願いしているもんですから……
「あらあらまぁまぁ、こんなところにヤルちゃまの新商品があったなんて……」
「あ、あ、あ、あのぉお婆さま!? そ、そ、そ、それは魔獣用のおやつでごじゃりまして」
「あらあら、おばちゃまは気にしないわよ」
「わた、わた、わた、私が気にするでおじゃりまするぅ!」
……とまぁ、ヤルメキススイーツの第一人者であるオルモーリのおばちゃまが間違えるくらいです。ヤルメキススイーツの新商品と勘違いする人が結構いるんですよね。なので、レジで一度確認するよう周知徹底している次第です、はい。
栄養価の高いふりかけなんかもあるのですが、これ、元々は普通の子供向けに販売していた物を、魔獣用に少しアレンジした商品だったりします。
このふりかけは、魔獣用も子供用もどっちもヒット商品になっていて、連日かなり売れている次第です。
魔獣が遊ぶための道具なんかも準備しているのですが、これは、
「ママ! これで遊びたい!」
って、普通の子供達がすっごく気に入るケースが多かったもんですから、今は子供用として販売している次第です。
そんなある日のこと……
コンビニおもてなし本店から、僕が勤務している7号店に魔王ビナスさんがやってきました。
「店長様、ルア様が相談があるとのことで、お見えなのですが……」
「ルアが? わかったすぐに行くよ」
お店をクローコさんやパラナミオに任せて本店がある辺境都市ガタコンベへ戻った僕。
コンビニおもてなし本店前の街道にルアが立っていたんですけど……その後ろに何かが……大きすぎて店内からでは見えません。
僕はすぐに店の外に出たのですが……
「……え?」
それを見た僕は思わず目を丸くしました。
そこには、全長3m近くありそうな……大きな鳥さんが座って羽根を休めていたんです。
なんでしょう……もこもこの羽毛に覆われてはいるのですが……その容姿はまるでプテラノドンのような翼竜といいますか……
「あぁ、タクラ店長。急に呼び出して申し訳ない」
「ルアのお願いだったら全然大丈夫だよ……ところで、ルア……その鳥さんは……」
「そうなんだ、こいつの件で相談があってさ……実は、こいつらを保護してもらえないかと思ってさ」
「保護?」
ルアの言葉に、首をひねる僕。
すると……ルアの言葉を合図に、上空から10匹近い鳥さんが舞い降りてきまして、ルアの後方に座っていきました。
後から下降してきた鳥さん達は、全長1~2m程度です。
最初からルアの後方に座っていた、一際大きな鳥さん……この鳥さんがこの鳥さんチームのリーダーなのかもしれませんね……しかし、保護って……一体何があったのでしょうか……
僕は首をひねりながら、ルアの後方に集結した鳥さん達を見回していました。