新商品狂想曲 その3
ソフトドリンクに関しては、テトテ集落にあるコンビニおもてなし出張所でお試し販売を実施している物があったりします。
このおもてなし出張所は、おもてなし商会テトテ集落店と併設されています。
で、このおもてなし商会テトテ集落店は、テトテ集落在住のリンボアさんの家の倉庫を利用させてもらっているんです。まぁ、倉庫といってもルアにお願いしてかなり立派な感じに改装してもらっているんですけどね。
で、そこを、家主であるリンボアさんと、元冒険者で今ではリンボアさんの娘のような存在になっているミミィさんの2人が切り盛りしてくれているのですが、スアが精製したゴーレムも力作業要員として配備していますので、実質的には3人ということになります。
このテトテ集落は、かつては農作業くらいしか地場産業がなくて、まさに限界集落だったのですが、近隣の山々に自生している果物の木を、スアの魔法で食べやすく品種改良を行いまして、で、それを一箇所に集めて果樹園を開園しているのですが、果物狩りを行いはじめたおかげで連日お客さんがすごい数押し寄せているんです。
コンビニおもてなしで運行している定期魔道船が毎日6から8便立ち寄っているのも相まって、今では集落の中に宿屋や酒場を営む人まで出ているんです。
集落のみんな用の日用品の他に、果樹園目当てでやってきた皆さん用の商品も販売しているテトテ集落出張所なのですが、ここ独自で販売しているのがフレッシュ果物ジュースです。
果樹園で収穫されている果物を使用して、注文が入ってからミキサーでシェイクしているこのフレッシュ果物ジュースですが、なかなか好評なんです。
休日限定でオープンするヤルメキススイーツ出張所で行っている、
『果樹園で狩った果物をケーキにします』
というサービスと並んで、すっかりテトテ集落店の名物になっているんです。
ただ、ケーキと違ってジュースとなると、果物によって適している、いないがありますので、使用する果物はこっちで準備していまして、それにカウドン乳や砂糖、はちみつなんかをブレンドする仕組みになっています。
「こういう細かい作業は、昔から結構得意だったんだ」
ミミィは笑顔でそう言いながら、たくさんの注文を手際よくさばいてくれています。
◇◇
今回増産するソフトドリンクについても、このテトテ集落で収穫される果物類を使用したらどうか、と、タルトス爺とも相談していたのですが……
「とりあえず、こんな感じのものをつくってみましたわい」
1週間ほどで、タルトス爺がみんなと一緒に試作品を準備してくれました。
黄色っぽかったり、無職透明だったり……色合いは様々ですね。
パラナミオをはじめとした子供達と一緒にスアの使い魔の森を訪れた僕達は、早速その試作品を口にしていきました。
「……この黄色いのは……梅?」
「あぁ、それはウルメの実を使用しましたですわい」
ウルメと言うと、僕が口にした梅によく似た実なんです。
この世界では旅の途中に喉が渇いたら、この実をかじって唾液の分泌を促進させるのに使っているんです。
栄養価が高いのもあって、結構人気なんですよ。
しかし……
これはなかなかいい感じです。
梅の酸味がベースになっている炭酸水にすっごくマッチしています。
「私も、これがとっても気に入りましたわぁ」
そう言ってウルメのサイダーを一番嬉しそうに飲んでいたのはアルトでした。
和装が大好きなアルトですので、こういった味が好みなのかもしれませんね。
というわけで、このウルメのサイダーは、アルトサイダー【ウルメ】として販売することにしました。
「パパ、僕はこれが一番好きです!」
リョータが選んだのは梨に似た果物、ナルシーのサイダー。
「リョータ様のそれも美味しいアル……でも、私はこれも好きアル」
我が家の居候として家族の一員に加わっているアルカちゃんが選んだのは、ライチによく似たラルイチ。
「ムツキはこれが一番にゃしぃ!」
ムツキが選んだのは、みかんによく似たオルレンジ。
どれもなかなかの味でしたので、それぞれ、
リョータサイダー【ナルシー】
アルカサイダー 【ラルイチ】
ムツキサイダー 【オルレンジ】
として商品化しようと思います。
まずは期間限定で販売してみて、その売れ具合を見てレギュラー化を検討していこうと思っています。
ちなみに……
中には「ちょっとこれは……」と言う物もあったわけです……
異常に甘すぎたり、なんだかドロッとしていたり……
「サイダーだけに、爽快感が大事だからなぁ……」
「そうですなぁ、ではこれらの商品は再度検討してみますですわい」
僕とタルトス爺は、そんな会話を交わしながら商品の改良についてもあれこれ相談しておきました。
きっとそのうち、試作品が出来上がってくると思いますので、楽しみにしておこうと思います。
◇◇
そんなわけで……
数日後から、コンビニおもてなしの各本支店ならびに出張所におきまして、おもてなしサイダーの新商品が一斉に店頭に並びました。
定番のパラナミオサイダーに、新たに4種類のサイダーが加わったわけですが、
「へぇ、こりゃまた珍しい飲み物が……」
「よし、物は試しだ、全部1本ずつ買ってみよう」
「おばちゃまも、ヤルちゃまのスイーツと一緒に買ってみるの」
とまぁ、顔なじみの常連さんを含めて多くのお客さんが新製品のサイダーを手に取ってくださっています。
皆さん、もちろんはじめて手にする商品だけに、中には味がわからなくて購入を躊躇しているお客さんも少なくなかったのですが、
「そういう時こそ、この試食の女王ことルービアスにお任せ!」
と、飛び出してきたのは、毎度お馴染みとなっているウルムナギ又のルービアスでした。
早速、小さな紙コップに入れたサイダーを配っていくルービアス。
「うん!? 確かにこれは美味い!」
「よし、この味なら買おう! いや、買わせてくれ!」
「ちょっと、そっちのも試飲させてよ」
ルービアスの周囲にはあっという間に人だかりが出来ていました。
しかし、試食や試飲を配布することに慣れているルービアスは、
「はいはい、お一人様1杯ですよ~。押さないでくださいね~」
終始営業スマイルを振りまきながら、お客さんに試飲を配り続けていました。
ルービアスは本店の店員を兼ねていますので、ヘルプ以外で本店以外に出向くことが難しいわけですが……ここで意外な戦力が加わったんです。
……いえね
「ホント……グズでのろまなウルムナギ又ですわねぇ……」
新人教育係の魔王ビナスさんをして、そう言ってため息を尽かせまくっていたルービアスの元部下であったウルムナギ又達5人なのですが……店員としての研修はさっぱりな状態だったのですが、この試食や試飲の品を配布することにはすごい適応能力を見せていまして、各地のコンビニおもてなしの支店においてすっごく役にたった次第なんですよ。
「はぁ……適材適所でございますわねぇ」
その活躍が意外だったのか、魔王ビナスさんも思わず苦笑いていた次第です。
……とはいえ、あの5人が能力を発揮したのって、試食や試飲を配布する際のみでして……通常業務にあたってもらうと、
「あれ? これはなんだったっけ?」
「これ、どうするんでしたかしら?」
「こっちのこれって、全ぜ」
「ん」
「使い方が思い出せませんわ……」
と……とっと目も当てられない惨状といいますか……ははは……
そんなわけで、ウルムナギ又のみんなには、魔王ビナスさんの元で研修を続けてもらいながら、試食や試飲業務が必要になった際に出動してもらうことにした次第です、はい。
そんなウルムナギ又のみんなの奮闘のおかげもあって、おもてなしサイダーシリーズはどの店でも早々に完売しました。
なので、全商品のレギュラー販売を検討しようと思っています。