ルアと鳥さん その2
ルアが保護してほしいと言って連れてきた鳥さん達は全部で11匹。
みんな容姿はプテラノドンのような翼竜なのですが、大きさはまちまちです。
リーダーらしい1匹だけが体調3mくらいあるのですが、あとの10匹はみんな1m前後くらいです。
「この鳥さん達は、いったいどうしいたんだい?」
「いやさ……ナカンコンベで仕事をしてたらさ、こいつらが魔獣達に襲われてるのを見かけて保護したんだけどさぁ……まさかこんなにたくさんいたとは夢にも思わなくて……」
苦笑しているルア。
しかし……ルアらしいと言えば、ルアらしいですね。
正義感が強くて、困っている人がいたら絶対に放っておけない正確のルアですから。
僕自身、異世界にいきなり飛ばされて困惑仕切りだった際に、ルアに助けてもらえていなかったら今頃どうなっていたか……
僕がそんなことを考えていると、スアが転移魔法で姿を現しました。
「……古代怪獣族……」
「古代怪獣族……って、確か北の方に住んでいる……」
「……そう……辺境都市ギアナコンベの近く……魔獣と亜人種族がまだ同じ個体だった時代の生き残りと言われている、の……」
ちょっと専門的な話が出てくると、途端に頷き人形状態になるしかない僕なんだけど……
「……でも、なんでそんな北方の古代怪獣族が、ナカンコンベの近くにいたんだ?」
「……ん~……聞いてみる」
「へ?」
スアの言葉に目を丸くする僕。
聞くも何も……この鳥さん達ってさっきからギャアギャアとかしか声を発していませんし……どう考えても言葉を話せるとは思えないというか……
「……ん、だいたいわかった」
「へ?」
「……この子達を統括していたリーダーが死んじゃって、他のグループに縄張りを奪われてしまって彷徨っていたみたい、ね……」
「え? え? 今、この子達とお話してたのかい? スアってば古代怪獣族の言葉もしゃべれるの?」
フルフルと首を左右に振るスア。
「……思念波……脳内に直接話しかけてお話したの」
「あぁ、なるほど」
そうでした。
スアは、思念波魔法を使って相手の脳内に直接話しかけることが出来るんでした。
そうすると、人種族や亜人種族の言葉をそれなりに理解出来る魔獣や古代怪獣族であれば意思疎通が出来るって、前にスアから聞いたことがあります。
まぁ、それの応用で……
『スア、愛してるよ』
なんて脳内で思ったりすると……ほら、スアが顔を真っ赤にしててれりてれりと体をくねらせはじめました。
さて、話を元に戻しますが……
「どうかなスア、この鳥さん達をスアの使い魔の森で保護してあげるっていうのは」
「……大丈夫……ただ、私と使い魔の契約を結んでもらわないと……」
スアの言葉を理解したらしく、鳥さん達は一斉に首を縦に振りました。
どうやらスアの使い魔になることに抵抗はないみたいですね。
そんなわけで、その場で鳥さん達と使い魔の契約をしたスア。
転移ドアを出現させて、この世界とは別の世界にある「スアの使い魔の森」へとみんなを連れていきまして、スアの再訴の使い魔でありこの森を統括しているタルトス爺に事情を説明しましたところ。
「はいはい、スア様の使い魔であられますれば、受け入れすることを拒む理由はございませんですじゃで」
タルトス爺は、巨大な亀の姿のまま鳥さん達へ視線を向けると、
「皆の衆、よろしくの。困ったことがあったらなんでも言ってくれい」
「私達もお助けしますわよ」
その横に、スアの使い魔の1人であるキキキリンリンもやってきましてにっこり微笑んでいます。
そんな2人に、鳥さん達は嬉しそうに羽根を羽ばたかせながら何度も何度も頭を下げていました。
次いで、僕とスア、そしてルアに向かって何度も頭を下げる一同。
特に、危ないところを助けてくれたルアには、頬をすり寄せるようにしながらスキンシップをしています。
「……あれ、親愛の感情を相手に伝えている、の」
「へぇ、そうなんだ」
確かに、鳥さん達の行動を見ていると、なんだかほっこりしてきます。
それが伝わっているのでしょう、ルアも、
「あはは、わかったわかった」
笑顔で鳥さんの顔を撫でてあげていました。
そんなわけで、スアの使い魔の森に新たな仲間が加わった次第です、はい。
◇◇
鳥さん達ですが、スアが調べてくれたところによりますと
「……プテラ族っていうみたい……温厚で、魚を主食にしているみたい、ね」
「へぇ、そうなんだ……」
スアの使い魔の森は、使い魔達が餌に出来る魚もたくさんいますので問題はないでしょう。
苦労して養殖に成功しているジャッケを食べないようにだけ気をつけてくれれば……って、まぁこれはタルトス爺が気をつけてくれるでしょうけどね。
そんな会話をスアと交わした僕は、パラナミオと一緒に仕事へ向かっていきました。
今の僕は、辺境都市ウリナコンベにありますコンビニおもてなし7号店で働いています。
この辺境都市ウリナコンベは、まだ定住人口が少ないものの、徐々に発展している都市だったりします。
都市の周囲に、多くの村や町、集落が点在しているもんですから、夕方になると僕は電気自動車おもてなし3号を使ってそういった集落などを巡り、移動販売しているんです。
おもてなし3号の後部は移動販売用の棚状になっているもんですからね。
もともと、コンビニおもてなしが僕の世界にあった頃、売り上げ低迷に悩んでいたコンビニおもてなしの売り上げアップの一環として、お店のない田舎の集落まで出向いていって移動販売したらどうかと思って導入したこの車なんですけど……結局元いた世界では一度も使用することがなかったんですよね……まぁ、何しろ僕が移動販売に出ている間、お店を任すことが出来るバイトさんを雇うだけの余裕が……ねぇ……
この移動販売……確かに好評なのですが、少々問題が生じ始めているんです。
いえね……ウリナコンベを中心にしてあちこちに点在しているこの集落などなのですが……とにかく数が多いんです。
「ほう、食べ物だけでなく生活用品まで!?」
「しかも、物がいいではないか!」
「毎日でも来てほしいわ!」
そんな感じで、どこの集落からも大歓迎されているのですが……範囲は広すぎて回りきれなくなり始めているんです。
一度に全部を回ろうとせずに、いくつかグループを決めて3日ごとにそのグループを回っていくという取り決めをしていたものの、コンビニおもてなしの移動販売の噂を聞きつけた他の集落などの皆さんが、
「ウチのとこにも来てくれんか?」
「私達の集落にもお願いしたいわ」
「ぜひウチのところにも!」
と、まぁ、そんな感じでどんどん希望される箇所が増えているもんですから……
「う~ん……この調子だと、1つの集落に、月に1,2回しか行けなくなってしまうかも……」
さすがにそんなに間隔が空くのはどうかなぁ、と、思ってしまうわけです。
みなさん、せっかく喜んでくださっているわけですし、最低でも週2のペースは保ちたいなぁ……と……
とはいえ、移動販売に使用出来る電気自動車はもうありません。
1号と2号がありますけど、1号は本店とテトテ集落の往復に、2号はナカンコンベ周辺の集落に、それぞれ移動販売を行うために使用していますので、こっちに持ってくるわけにはいきませんし……
……と、まぁ、あれこれ考えてはみたものの……解決策はそんなに簡単には思い浮かびません……
「とにかく、今日のお仕事を頑張るしかないか」
「はい! パラナミオも頑張ってお手伝いします!」
僕の言葉に、満開の笑顔で右手をあげるパラナミオ。
その姿で、なんだか僕も元気をもらえた気がします。
シオンガンタやユキメノームといったスアの使い魔達とパラナミオが仲良しになるのもわかる気がします。
こんなに元気をもらえたら……ねぇ。
その笑顔を見つめながら、僕はおもてなし3号を運転しながら山道を進んでいました。