192章 初めての共同生活
コハルが入浴している間に、今日の出来事を振り返る。
くじ引き大会中の殺人未遂は、刺された当人はもちろんのこと、周囲にも大きなトラウマを植え付けた。一生かけたとしても、消えることはないと思われる。
アカネの魔法を使用すれば、犯罪を完全に防止できる。それを理解していても、そのようなことはしたくなかった。魔法で生活を縛ってしまったら、地上が監獄になりかねない。そのような場所で生きても、地獄を味わうだけである。
入浴を終えたばかりの女性が姿を見せる。コハルの肌は、宝石のように輝いていた。
「最高に気持ちがよかったです」
個人の体調などに合わせて、お湯の温度が変更される。どんな状況であったとしても、ベストのお湯につかることができる。
お風呂をあがったばかりの女性は、大きな背伸びをする。
「アカネさん、外に出ませんか?」
恐怖心を克服しようとしている女性に、そっと手を差し出す。
「アカネさん、ありがとうございます」
コハルの掌のサイズは、アイコよりも小さかった。
家から足を出した直後、コハルの身体が震えることとなった。
「コハルさん・・・・・・」
「体を刺されたときの記憶が、鮮明に蘇ってきました」
彼女の脳内には、どのような映像が浮かんでいるのか。本人ではないため、想像することはで
きなかった。
「無理をしなくてもいいよ」
「奮い立たせることができなかったら、助けてもらった意味がありません」
無理にメンタルを回復させようとすると、反動は大きくなりがちだ。時間をかけられるのであれば、時間をかけたほうがいい。
コハルは二歩目を踏み出そうとしたものの、前に進むことはなかった。
「今日は厳しそうですね」
「無理はき・・・・・・」
コハルは切実な事情を口にする。
「私には支えてくれる人がいません。自分の力で生きていく必要があります」
生活保護のシステムがないため、自力でお金を稼がなければならない。弱者に冷たい街となっ
ている。
「1ヵ月くらいなら、私が面倒を見るよ」
幽霊退治の仕事を開始したら、家を空けることになる。そうなったときは、他のところで住んでもらう必要がある。
「アカネさん・・・・・・」
「家は広くないけど、一人くらいならいけると思う」
一人暮らしを前提としていたため、広さは控えめになっている。
俯いている女性に対して、優しい声をかける。
「人に甘えられるときには、人に甘えたほうがいいよ」
現時点の総資産は、750兆ゴールドもある。これだけの金額があれば、生活に困ることはな
い。
アカネの繋いでいる掌に、コハルの涙が付着する。
「アカネさん、お世話になります」
「コハルさん、今日からよろしくね」
「よろしくお願いします」
「家事、掃除とかはやってもらうからね」
一緒に生活するからには、共同作業はやってもらう。それを怠ることは許さない。
「はい、お手伝いさせていただきます」
「明日から、一緒にやっていこうね」
「はい、お願いします」
家族と生活したことはあるものの、赤の他人と生活するのは初めてだ。コハルとの生活は、どのようなものをもたらすことになるのだろうか。