お酒は大人に…… その4
辺境都市ナカンコンベにあるコンビニおもてなし5号店東店で一騒動あったわけですが、
「確かに、我ら鬼人族は酒にはちとうるさいですからな。気に入った酒を入手出来ない日が続いたとあれば、中には暴れだす不埒者がいてもおかしくは……」
駆けつけてきたイエロが教えてくれたんですけど、その話を聞いている僕の前では……
「さぁみんな、ファラの姉御のためにしっかり働くぞ」
「「「おー!」」」
おもてなし商会ナカンコンベ店の中で、大きな荷物を運んでいる鬼人達の姿がありました。
コンビニおもてなし5号店東店の前で『あの美味い酒がないだと、ふざけるなぁ!』って大暴れしていたところを、ファラさんの雷撃一発で倒されてしまった鬼人さん達。
今度は一転して『あんたの強さに惚れた……一生ついていくぜ姉御』とまぁ……舎弟といいますか、店員といいますか……とにかく、ファラさんの元に無理矢理弟子入りして、働きはじめてしまったわけでして……
「……そうですわねぇ……龍人である私のいるここナカンコンベ店と、同じく龍人のファニーが仕切っているティーケー海岸店は、無理に増員は必要ありませんけど、羊人のご婦人リンボアが切り盛りしておられるテトテ集落店に何人か回ってもらえばいいかもしれませんわねぇ」
「そうだね。あと、新しくおもてなし商会を開設する際に、そこの担当になってもらうのもいいかもしれないね」
僕とファラさんは、互いに貌を見合わせながらそんな相談をしていました。
確かに、こんなに力持ちでわかり合った後でならしっかりと指示に従ってくれる人材って、なかなかいませんからね。
ただ力が強いだけの人だと、さぼりまくったり言うことを聞いてくれなかったりと……商店街組合の蟻人達もそういう人が求人に応募してきたら対応に苦慮しているって言ってましたからねぇ。
◇◇
そんな出来事があってからしばらく経ちまして……
今日も僕は辺境都市ウリナコンベにありますコンビニおもてなし本店の厨房で弁当の調理をしていたのですが、そこに鬼人のシュテンさんが姿を見せました。
スアの使い魔の森にある酒造工房で職場体験をしているシュテンさん。
シュテンさん自身もお酒を造っているそうなのですが、タクラ酒を口にして『ぜひこのお酒の造り方を学びたい』って言われて、結構遠くの街からやってきているんですよね。
「タクラ店長、こんな酒を造ってみた。タクラ酒の製造方法を参考にしてタルトス爺達にも手伝ってもらった」
そう言って手渡してくれた酒瓶には『鬼ノ居ヌ間ニ』って書かれた手書きのラベルが張られていました。
さっそく厨房にいるみんなで試飲をさせてもらったのですが……
「……うん、これは美味しい! すっきりしていて、飲み干した後にずっしりと旨みが追いかけてくる感じがすごくいいね」
「まぁまぁ……お上品な味ですこと……この喉越しがたまりませんわぁ」
「お、お、お、お酒のことはよくわからないでおじゃりまするけど、このお酒が美味しいと言うことはよくわかるでごじゃりまする」
「わ、わ、わ、私もそう思いますわぁ。とってもいい気持ちになれます」
魔王ビナスさん・ヤルメキス・ケロリンの3人も、満面笑顔で試飲しています。
その様子に、シュテンさんも満足そうに頷いていました。
「まだ道半ば……だけど、こうして素晴らしいお酒に出会えて、美味しいお酒を造ることが出来たわけだし……その……感謝している」
シュテンさんは、そっぽを向きながらそう言いました。
このシュテンさんって、ちょっとツンデレなところがありまして、素直に『ありがとう』といった感謝の気持ちを相手に伝えるのが苦手なご様子なんですよね。
「いえいえ、お役に立てたのでしたら何よりです」
「……その……ま、また時々、来てやっても……じゃ、なくて……べ、勉強に……その……」
「えぇ、いつでもお待ちしています」
素直に気持ちを言葉に出来なくて口ごもっているシュテンさん。
そんなシュテンさんに、僕は笑顔を浮かべながら右手を差し出しました。
シュテンさんは、少し照れくさそうにしながらも、その手を握り返してくれました。
言葉はあれでしたけど、その握手からしっかりと感謝の気持ちが伝わってきた次第です。
ちょっと性格には難がある感じのシュテンさんですけど、とってもいい鬼人さんだと思います。
その後、シュテンさんと相談しまして、
・今後も定期的にシュテンさんの鬼酒シリーズを納品してもらう
・今後も定期的にスアの使い魔の森で酒造りの勉強をする
こんなことを口約束していきました。
本来でしたら契約書とかを交わすんですけど、鬼人族の人々はそういった小難しいことを苦手としているんですよね。
それに、そんな事をしなくても鬼人族の人達は、信頼関係を築いた相手との約束は絶対に守る種族ですので。それはイエロを見ていてよくわかっています。
その後、シュテンさんは一度戻っていかれました。
その体を竜化させて空を舞っていくシュテンさん。
その姿は、何度見ても某昔はなしのアニメのオープニングに出てくる子供を乗せた竜にしか見えないといいますか……
「さて、これでコンビニおもてなしの商品に新しくシュテンさんのお酒が加えることが出来たわけだな」
シュテンさんが『今回お世話になった分』として置いていった、酒瓶の詰まった木箱の山を見つめながら僕は笑顔を浮かべていました。
◇◇
その日の夜のこと……
スアが僕を自分の研究室へと連れていきました。
子供達が寝静まった後ですのでてっきりあれの催促かと思ったのですが、
「……飲んで、みて」
スアは僕にコップを差し出しました。
その中には黄色くてシュワシュワしているものが入っています。
で、さっそれをグイッと飲み干した僕なのですが……
「あ、あれ!? こ、これスアビール……じゃ、ない!? なんかスアビールよりも喉越し感が強くて、ズシッとスキッと……うわ、すごく美味しいよ!」
そうなんです。
この飲み物、一口目がスアビールに似ているのですが、喉越しが全然違うんです。
スアビールは喉を潤しながら通過していく感じなのですが、この飲み物は喉にガツンとインパクトを残していく感じなんです。
「……スアビールの新作……どう?」
「うん、間違いなくこれも売れるよ!」
僕が笑顔でそう言うと、スアもにっこり微笑みました。
……あ、ひょっとして……お酒の方に新商品が加わったから、ビールの方でも負けずに新商品を……スアってば、そんなことを思ったのかもしれませんね。
スアの場合、誰よりも僕の役にたちたいっていっつも思ってくれていますので。
「スア、いつも本当にありがとう」
僕はそう言いながらスアの頭を撫でました。
スアは、嬉しそうてれりてれりと体をくねらせていたのですが、
「……そろそろ、ご褒美……」
頬を赤く染めながら僕の腕を引っ張りまして……
と、まぁそんなわけで、僕はスアと一緒に研究室の一角にあります仮眠室へと移動していきまして……はい、ここから先の出来事に関しましては、いつものように黙秘させていただきますね。