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新商品狂想曲 その1

 コンビニおもてなしのお酒関連の商品に、新商品が加わりました。
 スアビールストロングと、鬼人酒造のお酒です。

 鬼人酒造のお酒は、シュテンさんがご自分の酒蔵で製造しているお酒を卸してもらっているのですが、結構色んな種類があるんです。
 で、一升瓶サイズしかなかったものですから、

「シュテンさん、申し訳ないのですが、この瓶につめてもらうことは可能でしょうか?」
 
 そう言って、シュテンさんにお渡ししたのはコンビニおもてなしでタクラ酒を販売する際に使用しいている720ml瓶とワンカップ用の瓶でした。
 これ、辺境都市ブラコンベにありますペリクドさんのガラス工房で製造してもらっているんです。
 ドンタコスゥコ商会とかに卸売りするための一升瓶も作成してもらっていますけど、コンビニおもてなしの在庫として残っていた瓶を参考にしてもらって、ほぼ同じ品を製造・納品してもらっているんです。
 コンビニおもてなしで販売する場合、一升瓶だと持ち帰りに不便ですからね。
 ちなみにスアビール用の缶は、コンビニおもてなし本店のお向かいにありますルア工房で製造・納品してもらっているんです。

「ふうん……僕が使っている瓶より小さいんだねぇ……でも、結構いい出来だ……うん、これになら僕の作った酒を入れてあげてもいいかな」

 小柄な割に、いつも上から目線な感じのシュテンさんは、そう言って僕の申し出を快諾してくれました。

 数日のうちに、鬼人酒造のお酒とスアビールストロングが店頭に並び始めまして

「さて、新発売のキャンペーンを考えないと……」

 今度はそっちの事を考えはじめました。
 そうですね、シュテンさんのお酒に関しては、同じ鬼人のイエロとグリアーナをモデルにして、2人が豪快に飲み干しているところを……スアビールストロングに関しては、あれこれ試行錯誤したのですが、最終的にパラナミオを起用することにしました。
 僕の世界基準ではまだお酒はNGなのですが、こちらの世界の基準では成人しているパラナミオでして、お酒を飲んでもいい年齢に達したばかりなんです。
 で、パラナミオがスアビールストロングを手にしてにっこり笑っているところを使って……あとは、その横にでっかく「デビュー!」の文字を入れると、

 パラナミオのお酒デビュー

 と

 スアビールストロングがデビュー!

 の両方にかかっていていいかな、と思ったわけです、はい。
 まぁ、せっかくですので3人には、スアビールストロングと鬼人酒造のお酒両方の撮影をさせてもらって、その上で使用する方を検討しようかな、と思っているんですけどね。

 ……しかし、あれですね……こういったポスター類は全部僕が試行錯誤しながら作成し続けているんですけど、そろそろ広報部門を立ち上げて、こういったことを専門に行う人を雇用してもいい時期にきているかもしれませんね。

 と、いうのも……

 先日、ガタコンベを会場にして開催された花祭りの際にも、
『タクラ店長さんは告知ポスターとか作成なさるのが上手ですです、ぜひぜひお願いしたいですです』
 って、商店街組合の蟻人さん達にお願いされまして、山の中にいるブロロッサムの精霊さん達のところまで出向いていって、ブロロッサムの精霊さん達と一緒にはしゃいでいる我が家の子供達って構図の写真を撮って、それを元にしたポスターを作成したりしたんですけど、こんな感じでポスター作成を依頼されることが結構増えてきているもんですから……

 とりあえず、新部門に関してはまた改めてってことにして……

 僕は早速、写真撮影を行っていきました。
 まずはスアビールストロング用の撮影からです。
 イエロとグリアーナには、狩りから帰ってきた2人にスアビールストロングを飲んでもらいまして……

「うむ!? こ、これはうまいですな!」
「スアビールにしては味がこう、ガツンとくる感じでございますね!」

 と、豪快に飲み干した後、びっくり&感動している2人の様子をパチリとさせてもらいました。
 もちろん、撮影後に事情を説明して承諾を得ていますからね。

 で、パラナミオにはお仕事の合間に

「じゃあパラナミオ、その缶を顔の横に……そうそう、そのままにっこり笑ってくれるかい?」
「はい! こうですか!」
「よし、じゃあ撮影するよ~」

 パシャ!

 といった具合で撮影を行ったのですが、満開の笑顔の横にスアビールストロングの構図……見事1発OKでした。
 いつも満開の笑顔をみんなに振りまいてくれているパラナミオらしい、とっても素敵な笑顔が大写しになっています。
 僕は、撮影したばかりの画像データを、デジカメを操作しながら確認していたのですが、そこにパラナミオが駆け寄ってきました。

「パパぁ……いいかんじにとれれますかぁ……ひっく」
「うん、いい感じにとれて……って、あれ?」

 僕は、違和感を覚えてパラナミオへ視線を向けました。
 すると……なんということでしょう……
 パラナミオってば、真っ赤な顔をして僕にもたれかかってきているんです。
 足はフラフラしていまして、目もなんだか焦点があっていない様子です。

 って……あ……よく見たら、パラナミオってば、スアビールストロングを一気に飲み干してしまったようですね……

 あぁ、そっか……そういえばパラナミオに、これお酒だからって言ってなかったかも……
 喉が渇いていたのか、撮影が済んだもんだから飲んじゃったみたいですね……

「ぱぱとままのしんしょうひん、すこしにがいれすけどなんだかきもちよくなりますれれ~」

 あはは~と、いった感じの笑顔をその顔に浮かべているパラナミオ。
 とりあえず、これは一度家で横にならせた方がよさそうですね。

「だいじょうぶれすよぉ、おしごとがんばるれす」
「いや、パラナミオ……酔っ払いはみんなそう言うんだ」

 そう言いながら、僕はへべれけになっているパラナミオをお姫様抱っこしていきました。
 すると、それまで『だいじょうぶれす!しごとしますれす』って言っていたパラナミオが途端に大人しくなりました。

「……パパに抱っこしてもらってます……えへへ~……」

 嬉しそうに笑いながら僕の胸に顔をすりつけているパラナミオ。
 なんというか……そういう姿もまた可愛いのですが……とにかく今はゆっくり休ませてあげないと。

 転移ドアをくぐってコンビニおもてなし本店に戻った際に、いつもは地下倉庫を冷媒役として冷やしてくれているシオンガンタとユキメノームの2人が

『私が抱っこを……』
『俺が抱っこを……』

 みたいな感じで僕の周囲に駆け寄ってきたんですけど、

『パラナミオ、ぱぱじゃなきゃいやれふ』

 そう言って僕に抱きついてきたパラナミオでして……パラナミオのことが大好きなシオンガンタとユキメノームの2人が揃って床に突っ伏していたのは言うまでもないといいますか……

 そんな一騒動がありながらも、僕はパラナミオをベッドに横にしていきました。

「~?」

 そこに歩み寄ってきたのはミンスでした。

 スアの新しい巨木の家である世界樹イルミンスールの精霊であるミンス。
 いつもは巨木の家に同化しているのですが、時々小さな女の子の姿で僕達の前に現れるんです。
 言葉は滅多に話さないミンスですけど、スアによると、

『……私達のことを好意的にとらえてくれてる、わ』

 とのことなんですよね。

「あ、ミンス。パラナミオが少し具合が悪くてね。もしよかったら少し様子を見ててくれないかな?」

 僕がそう言うと、ミンスは大きく頷きまして、そのままベッドの上に座っていきました。
 家族全員がバーコード状態になって寝ることが出来るくらい大きなベッドですので、パラナミオの横にミンスが座っていても全然大丈夫です。

 言葉は話しませんけど、表情がとっても豊かなミンス。
 最初は心配そうな表情でパラナミオのことを見ていたのですが、

「むにゃ……ぱぱ……いっぱいしゅき……」

 幸せそうに眠っているパラナミオを見て安心したのか、すぐに笑顔になっていました。

 そんなわけで、パラナミオのことをミンスにお願いしてコンビニおもてなし7号店に戻ろうとした僕だったのですが……

「はいはいはい、スアビールストロングと鬼人酒造のお酒はまだございますので」
 転移ドアに向かっていた僕の背後、本店のレジから魔王ビナスさんの少し焦った声が聞こえてきました。

 そこで、レジの方を覗いてみたのですが……

「スアビールストロングをあるだけ売ってくれ!」
「ちょっと、こっちだってほしいんだからね! 買い占めは許さないわよ!」
「こ、これって、幻って言われてる鬼人酒造の酒なの!? こ、こんなところで手に出来るなんて……」
「買う! 買わせてくれぇ」

 そんな感じで、レジの前には、まだ宣伝を何もしていないにもかかわらず、早くもスアビールストロングと鬼人酒造のお酒を購入しようとしているお客様でごった返していたんです。

 嫌な予感がした僕は、慌てて7号店へと戻っていったのですが……

「スアビールストロングっていうのをあるだけ売ってちょうだい!」
「ちょっと待て、こっちだって欲しいんだ! 買い占めは許さねぇぞ!」
「こ、これって、幻って言われてる鬼人酒造の酒なのか!? こ、こんなところで手に出来るとは……」
「買うわ! 買わせてちょうだい!」

 案の定、こちらのレジの前もスアビールストロングと鬼人酒造のお酒を購入しようとしているお客様でごった返していたんです。

「はいはいはい、スアビールストロングと鬼人酒造のお酒は、まだまだ在庫あるし! みたいな?」
「お客様~♪ さぁ、慌てず騒がず一列で~♪」

 クローコさんとブロンディさんが、手慣れた様子でレジ作業をこなしてくれていましたので、どうにか大丈夫そうです。

「よし、じゃあ僕も……」

 一度気合いを入れてから、僕もレジに加わっていきました。

 ……タクラ酒も、売れてくれるといいなぁ……

 なんてことを思いながら……

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