ウリナコンベの7号店本番 その2
ウリナコンベ商店街組合の奥にあります応接室。
その中では現在コンビニおもてなし7号店として出している求人に応募してきた人の面接が行われているわけですが……
その部屋の中からなが~い尻尾が飛び出していたわけでして……
最初は目を丸くしてしまった僕なんですけど……よくよく見ていると、その尻尾とよく似た物を僕は今までにも何度も目にしたことがあったことを思い出しました。
あの光り具合
あの動き
どう見ても巨大な蛇の尻尾にしか見えないわけなんですけど……
「あぁ……ラミア族の人が応募してきたんだな」
僕は、納得したように頷きました。
あの尻尾……間違いありません。
オトの街で食堂をやっていて、現在「ラテスのロールケーキ」を定期的にコンビニおもてなしに卸売りしてくれているラミアのラテスさんの尻尾とそっくりなんですよ。
で
応接室の中をのぞいてみましたところ……面接官を務めている蟻人で組合長のエレエの前に座っているのは、下半身が蛇になっているラミア族の女性だったんです。
応接室の中には、同時にあと3人の亜人種族らしい女性が入室していたんですけど、このラミア族の女性の人の尻尾があまりにも長いもんですから、これ以上人が中に入る余地はなさそうでした。
そんなわけで、僕とパラナミオの2人は入り口から少し離れた場所で中の様子を聞いていたのですが……
「はいですわ! この有名なコンビニおもてなし様で働けるのでしたら私、身を粉にして働きますまわ!」
「や、やる気ならアタシだってまけてないっての! 目一杯やるぜ、アタシは!」
「ゴミ掃除は得意すら~お店の中を全部すっきり綺麗にしてみせますすら~」
「ぴゃあ! ピルピリアは飛ぶのが得意ぴゃあ! 高いところも綺麗にしますぴゃあ!」
中からは、そんな感じで我先にとアピールしている感じの声が聞こえてきています。
その声と同時になんか足音まで聞こえていますので、面接を行っているエレエの元に我先にと歩み寄っている人がいる感じですね。
よく見ると、廊下にはみ出している蛇の尻尾まで室内にズルズルと入っていっていますから、ほぼ間違いないと思います。
「この感じだと、これ以上中の様子を調べることは出来そうにないし……一度お店に戻ることにしようか」
「はい、わかりました!」
僕は、パラナミオとそんな会話を交わしながら商店街組合の建物を後にしていきました。
「とりあえず、応募はあったみたいだし……どんな人がやってくるかな」
「はい、パラナミオもまけないように頑張ります!」
僕の横で、パラナミオは両手をしっかりと握り締めながら気合いの入った表情をその顔に浮かべています。
はじめて出会った時のパラナミオって、山賊の奴隷になっていたんですよね。
ご飯もろくに食べさせてもらえていなくて、ひどく痩せこけていたパラナミオですけど、あのとき僕が持っていた食べ物の匂いに釣られて僕のところにやってきて……あのとき僕が弁当を持っていなかったら、スアやエレが山賊達と一緒に退治してしまっていたかもしれません。
もしそうなってしまっていたら、今頃パラナミオはあの山賊達の一味として王都の刑務所の中に入れられていたままだったかもしれません。
そんなことを考えていると……なんか、無性にパラナミオの事が愛おしく思えてきてしまいまして、僕はパラナミオを抱きしめながら抱き上げていきました。
「パパ? 嬉しいですけど、ちょっと恥ずかしいかも……」
パラナミオは、少し困惑しながらもどこか嬉しそうです。
「さぁ、パラナミオ、みんなで一緒に頑張ろうな」
「はい! 任せてください!」
僕の笑顔に、パラナミオも笑顔を返してくれました。
僕は、パラナミオを抱きかかえたままコンビニおもてなし7号店の建物へ向かって歩いて行きました。
時折周囲を行き交っている人々にも見つめられていたのですが、その視線は一様に
『仲良し家族だね』
的な、すごく温かく感じる視線でした。
なんと言いますか、すごくいい人が多い感じですね、この都市ってば。
◇◇
さてさて、そんなわけで開店準備がどんどん進んでいるコンビニおもてなし7号店ですが……そろそろ試験販売を開始してみようかな、と思い始めている次第です。
今までも、新しい辺境都市で開店する際には、正式オープン前に試験販売を行いまして、
・その都市でよく売れる物
・やってくるお客さんの状況
そういったデータを事前に入手していたんですけど、それを今回も実施しようと思っているわけです。
辺境都市ナカンコンベにコンビニおもてなし5号店を開店する際には、試験販売を行った結果弁当類の売り上げが既存の他店舗の比でではなくすさまじいっていうのがわかっていましたので、弁当売り場を倍の広さにしたり、温泉地の辺境都市ララコンベに4号店を開店する際にはララデンテさんが蒸したり焼いたりしていた温泉まんじゅうがすっごく好評だったもんですから急遽実演販売のスペースを設けたりして概ね成功しているわけです。
店舗に戻った僕は、パラナミオと2人で早速商品を並べてはじめました。
弁当やパン、ホットデリカ類やヤルメキススイーツなんかは毎朝作成したてのものを陳列しますので、
スア製の薬品類
ルア製の武具や調理器具、農具
ペリクドさん製のガラス製品
テトテ集落の衣類や鞄類
魔女魔法出版の書籍
スアの使い魔の森製の飲み物
こういった物を陳列棚に並べていきます。
異世界に飛ばされてきてすぐの時って、コンビニおもてなしの中に残っていた在庫を店頭に並べて販売していたんですけど、いつの間にかこちらの世界で扱っている製品の数もすごく多くなっていました。
そのどれもがこの世界で作成出来るものばかりといいますか、この世界で出来るようにあちこちにお願いにいったり相談したり試行錯誤したりして、どうにかここまでたどり着いたわけです、はい。
まぁ、ほんといろんなことがありましたけど、こうして異世界に8店舗目の支店を出すことが出来ることになったわけです。
あ、7号店なのに8店舗って間違っているわけじゃありませんからね。
5号店があります辺境都市ナカンコンベがですね、都市の規模がすっごく大きいもんですから、5号店東店と5号店西店の2店舗を展開していますので、7号店だけど8店舗目になるんですよ。
出張所もあちことに開店出来ていますけど……神界で元女神様の使い魔のマルンがいわゆる脱サラ……この場合脱使い魔ってことになるんですかね? まぁとにかく、そうして開店しているヤルメキススイーツのお店とコンビニおもてなし神界出張所なんてものまであるわけでして……神界って、僕が元いた世界で例えるとあの世ってことになるわけですけど……異世界にやってきたら、あの世がまさかこんなに身近に感じられるなんて思ってもみませんでしたよ……あ、4号店の新店長のララデンテさんも思念体っていう名前の幽霊でしたね、そういえば……
そんな事をあれこれ考えながら、僕はパラナミオと2人で陳列棚に商品を並べていきました。
娘と2人ではじめる新しいお店です。
うん、頑張らないといけませんね。