ウリナコンベの7号店本番 その1
我が家の子供達があれこれ頑張っている今日この頃ですが、そんな中辺境都市ウリナコンベで進んでいたコンビニおもてなし7号店の新築工事は着々とんでいます。
辺境都市ガタコンベにあります本店に、ルア工房のルアがやってきて、
「タクラ店長、大体出来たんで近いうちにちょっと確認してくれるかい?」
そう行って来ました。
「うん、わかった。早速明日にでも確認に行かせてもらうよ」
「じゃあ、アタシも同行するからよろしくな」
ルアと僕は、そんな会話を交わしました。
で
翌日、早速僕とルアは辺境都市ウリナコンベへ移動していきました。
このウリナコンベは、ガタコンベのかなり西方にあります。
近くには、大武闘大会を開催している辺境都市バトコンベの近くにあります。
今年も大武闘大会が開催されるようなら、またイエロやセーテンが参加すると思います。
何しろ2人は前回の大会でも決勝トーナメントに残った猛者ですからね。
『次回こそ優勝して、コンビニおもてなしの旗を振ってみせますぞ!』
前回の大会の後にそう言っていたイエロですけど、僕的には怪我なく終わってくれればそれで十分だって思っているんですけどね。
今日、ウリナコンベへやってきたのは僕とルア以外にパラナミオが同行しています。
「パパ、ここでパラナミオはパパと一緒に働くんですね! 頑張ります!」
気合い満々の表情でお店を見上げているパラナミオ。
スアが、ルア達が工事にくるためにと事前に設置してくれていた移ドアをくぐってやってきた僕達ですが、建物にはすでに、
『コンビニおもてなし』
の赤い看板が設置されていました。
街道に面している壁も全面ガラス張りに改修されています。
まだ開店前ですのでガラスの内側にはブラインドが下ろされているのですが、
「……え、何これ?」
「こんな壁、見たことない……」
街道を行き交っている人々はそんな言葉を口にしながら、ほぼ全員振り向いてから通り過ぎている感じでした。
この世界には、こんなに大きなガラスの壁を作成する技術はありませんからね。
辺境都市ブラコンベに工房を構えているガラス職人のペリクドさんでも、
「いや、こりゃ無理だって。俺でもつくれねぇって」
そう言わしめたほどなんです。
この壁を生成してくれたのはスアなんですけど、
「……いくら魔法でも、ここまでのガラスの壁を生成出来る魔法使いなんて……」
「そうね……まずいないと思う……」
コンビニおもてなしの各店舗を訪れた魔法使いの皆さんがもれなく同じ言葉を発しておられるほどですので、スアの魔法の能力がいかにすごいかってことを改めて実感することしきりだったりします。
「見た目は他の店舗と同じで、地下1階地上3階建て。地下は倉庫で、2階と3階は社員寮や宿に転用出来るようにしてあるからね」
ルアの説明を受けた僕とパラナミオは、店内に入っていくルアの後について店内へと入っていきました。
1階の店舗の中には、棚などもすでに並べられています。
壁に備え付けの物だけでなく、店内にいくつかの棚が理路整然と並べられていまして、
「パパ、後は品物を並べるだけですね!」
パラナミオが言うとおり、商品さえ陳列してしまえばすぐにでも開店出来そうな状態にまで仕上がっていました。
地下倉庫は、本店とほぼ同じ状態で、周囲が石組で覆われています。
部屋は2部屋ありまして、1部屋が冷蔵用倉庫、もう一部屋がスアが管理している魔法太陽光発電システムの蓄電施設を設置する場所になっています。
屋上に、スア製の魔法太陽光発電パネルを設置しまして、それで発電された電力をここにためる仕組みになる予定です。
ゆくゆくは、この辺境都市ウリナコンベにお店を構える商会さん達にも売り込みをして、魔法太陽光発電システムで発電し、スアの魔石変換システムで魔力に変換された魔力を供給する契約を結ぼうと考えています。
僕と一緒にこの世界に転移してきたコンビニおもてなし本店の屋上に設置されていた太陽光発電システムですけど、それを調査・研究したスアがまさかその何百倍もの発電が可能になるシステムを開発してしまって、しかもその電力をこの世界の電気とでも言うべき存在である魔力に変換する仕組みまで開発してしまうなんて……正直夢にも思っていませんでした、はい……
こういった、コンビニ業務とは無関係の部門はすべてコンビニおもてなしとは切り離して運営しているんですけど、今ではコンビニおもてなしグループの主な収益源の1つになっているほどですからね。
これからも、スアと一緒にこの部門も頑張っていかないと、と、いつも思っている僕だったりします。
◇◇
2階と3階には個室がいくつも並んでいます。
ここには、当面、7号店の店員として赴任してくる予定になっている、現コンビニおもてなし4号店のクローコさんとブロンディさんに住んでもらう予定にしています。
「あとは……エレエがいる商店街組合に行って、店員募集に応募があったかどうか確認しないとな」
そんな事を考えていました。
で
店舗内を一通り確認し、店舗の裏に荷馬車を止めることが出来る場所を追加してもらったり、2階の1室をおもてなし診療所として転用出来るように棚なんかを増設してもらう追加工事をルアにお願いしてから、僕とパラナミオは街道を移動して、商店街組合の建物へと出向いていきました。
まぁ、移動した……と、言いましても、距離にして100メートルもありませんので、すぐなんですけどね。
エレエの好意で、都市の中央にすごく近い場所に店舗を構えさせてもらっていますので、ホントにありがたいことです、はい。
商店街組合の建物も、出来上がって間がないらしくすごく綺麗です。
その中では、多くの蟻人さん達が忙しそうに仕事をこなしていました。
……ですが……その中にエレエの姿が見えません。
「あれ?……エレエは留守なのかな?」
僕がそう言うと、パラナミオがびっくりした顔を僕に向けてきました。
「ぱ、パパ!? エレエさんの区別がつくんですか!?」
そう言って、目を丸くしているパラナミオ。
あぁ、でも、これってパラナミオに限った話ではないんですよね。
エレエ達蟻人さんってみんな背格好や顔立ちまですっごくよく似ているもんですから、なかなか区別出来ないみたいなんですよ。
ただ、僕はなんとなく区別が出来るんです。
どこで? どうやって見分けているの? ってよくみんなからも聞かれるんですけど、こればっかりは感覚的なものなんで、お応えしようがないのが玉に瑕なんですけど……
僕とパラナミオがそんな会話を交わしていると、1人の蟻人さんが僕達のところへと寄ってきました。
「エレエ組合長でしたら、今、コンビニおもてなしさんの求人に応募してこられた方の面接をおこなっているところですです」
「え? そうなんだ」
その言葉に、僕も思わずびっくりしてしまいました。
ウチの店の店員候補さんの面接中という、すごいタイミングでやってきたわけですからね。
「あの、僕がそのコンビニおもてなしの店長なんですけど……もしよかったらその面接に立ち会わせてもらってもいいですか?」
「あぁ、そういう事でしたら問題ないかと思うですですけど、とりあえずちょっとお待ちくださいさい」
そう言うと、その蟻人さんは建物の奥へと一度移動していきました。
程なくして戻ってくると、
「はい、大丈夫みたいですですので、ご案内しますます」
そう言って、僕とパラナミオを建物の奥へと案内してくれたのですが……
「……パパ、なんでしょう、あれ?」
パラナミオが首をひねりながら僕にそう聞いてきたのですが……そんな僕とパラナミオが向かっている前方には、開け放たれている扉がありまして、その中からすっごく長い何かが廊下へ向かって伸びていたんです。