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わたしはお兄さんとにらみ合う。本来ならわたしは完全な部外者だが、ここで引くわけにはいかない。せっかく宿屋の経営が上手くいきそうなのだ。せっかくなら家族関係も改善してほしいと思う。これは友達の一人としてもそう思うのだ。
次の手が打てずに完全に生き詰まっていると、おばさんが奥から出てきた。
「パルちゃん。来てくれてたんだね。ありがとう。何とか宿屋の方は上手くいきそうだよ」
「はい。お兄さんからその話を聞いていました。何とか軌道に乗りそうで安心しました。人手の方はどうですか? 仕事の配分は負担が大きくなっていませんか? キツイと続かなくなるので、そこは心配しています」
「まあ、磯しいけど何とかなるよ。嫌だと言いながらもリサは手伝ってくれているからね」
おばさんの方からリサの話が出てきた。今まではリサを蚊帳の外に出そうとしている印象を持っていたが、事情が分かるとリサの事を気にかけていると分かって来る。わたしも現金なものだ。
お兄さんに釘を支えたのでリサの事を言い出せないでいると、お兄さんから別な話を持ち出された。
「そういえば、宿屋の方も上手くいきそうだから、父さんからリサちゃんの報酬を払ってもらわないといけないね」
「そうだったね。上手くいったら報酬を払う約束だったね」
「結果は今からなのにもう報酬を払う話をしてもいいですか?」
「ここまで上手くいけば十分だよ。この先は自分たちのやり方次第だからね」
結論はまだ先のつもりでいたが、おばさん達はもう十分だと思っているらしい。この話に対して結論が出てしうようだ。リサの話が結論が出ていないのでわたしはスッキリ出来ないのだが、クライアントが満足したというのであれば、私の方から何も言うことは出来ない。
どうしよう。このまま終わればリサの話は有耶無耶だ。
わたしは唇を噛んで悩んでいると、お兄さんは奥に引っ込んでしまった。おじさんを呼びに行ってしまったらしい。
わたしがどうしようか悩んでいる間におじさんが来てしまった。こうなるとわたしにはそうする事もできない。自分の無力感に悩まされつつ報酬の話が切り出されてしまった。
「ありがとうパルちゃん。おかげさまでなんとかなりそうだよ。お客さんも少しづつ戻って来ているし、噂にもなっているみたいだ。こうなればこっちのもだね」
おじさんはご機嫌に話し出した。どうやら滑りだしは上々の様だ。評判も良いのだろう。こうなると次の心配は他の宿屋が真似をする事。値段で競り負ける事だ。そこについては釘だけを指しておこう。後は自分たちで考えるだろう。
「おじさん。順調な滑り出しで安心しました」
「パルちゃんのおかげだよ。ここまで評判が良くなるなんて思ってもいなかったよ。ありがとう。助かったよ」
おじさんは本当にご機嫌だ。そこに水を差すようで申し訳ないが、言わないといけない事だけは伝えておこう。
「おじさん。水を差すようで申し訳ないのですが、今後の可能性の話だけはお伝えしておきます」
「なんか怖いね」
「知っておけば何かあった時に慌てずに済むので」
「何かな?」
今までの経験があるせいかおじさんはわたしの話を真面目に聞いてくれる姿勢があった。おかげで話しやすい。
「おじさん。今後の可能性としては、考えられることが二つあります。一つは同様のサービスを他の宿屋が開始する事。もう一つは値段競争で負ける事です。規模が大きいところでは値段で競り負ける可能性があります。そこだけは忘れずにいてください。値段だけがすべてではありませんが、そこを見てくる人もいるので」
「そうだったね。分かったよ。注意しておく」
おじさんは真面目に頷いてくれた。その後は一転して笑顔を見せる。
「パルちゃんのおかげで上手くいきそうなんだ。最初の約束だ。お礼をしないとね」
私の始めての仕事が終わろうとしていた。