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彼はパーカスのしつこい質問に降参すると真実を見せた。
「ピノ、足は大丈夫か? どこか痛むか?」
「うんん、足はちょっと擦りむいただけで痛くないよ」
「そうか。なら心配ないな」
ピノはローゼフに足を見せた。パーカスは間近で少年の足をみると思わず目を疑った。彼の足は人形のような球体関節だった。人間の皮膚のような下にウッすらと、その関節が見えるとパーカスは驚かずにいられなかった。
「こ、これはたまげた……! まるで人形のようだ……!」
みたこともない光景を目にすると、パーカスは驚きの余りに目をひそめた。
「パーカスこれでわかっただろ? この子は人間に近い人形なのだ――」
彼がそう言って秘密を打ち明けると、パーカスは驚きの余りに倒れこんで気絶したのだった。目の前で執事が気を失うと、ローゼフはそこで深いため息をついた。
「……やはり他の者には刺激が強すぎたみたいだな」
ローゼフは気を失っている執事の傍でふと呟くと、他の使用人を居間に呼び寄せて彼を別室に運んだのだった。そして、間もなくしてパーカスが自分の部屋のベッドの上で気がつくと、傍にいたローゼフが彼に詳しく事情を説明した。パーカスは、彼のその話に衝撃を受けた。だが、ローゼフの話を疑うこともなく。彼なりにその話を静かに受け止めたのだった。
「なるほど……。ではつまりあのおかしな骨董品屋の商人に不思議な人形を買ったところ、人形から人に変化したと言うわけですか?」
「ああ、そうだ……」
「信じられないような話ですが、貴方様がそう仰るのであれば私も信じましょう。しかし、よく出来た人形ですね。人形と言うか人間に近いと言うか……」
パーカスはそう言って興味津々な表情で少年に目を向けた。手を伸ばすとピノはローゼフの後ろにさっと隠れた。
「やめろパーカス、ピノが怯えている……! この子は私以外の人間しか見たことがないのだ。いきなりお前をみたからピノはまだ驚いているんだよ」
ローゼフは後ろに隠れているピノのことを気遣うと彼にそう話した。
「さ、左様でしたかローゼフ様……。それは大変失礼しました」
パーカスはそう言って返事をすると、礼儀正しく深々とお辞儀をして謝った。
「いいかピノ。この人はパーカスと言って、私が唯一信頼している執事だ。悪い人間ではないから許してやってくれ。まあ、すこし口うるさい所があるが問題はない」
ローゼフが彼について話すと、ピノは小さく頷いてパーカスに握手を求めた。
「ボ、ボクはピノ。よろしくねパーカス……?」
ピノは勇気を出して握手を求めると、パーカスは差し出された小さな手をとり、喜んで握手を交わした。
「なんて可愛らしい方だ。こちらこそよろしくピノ……!」
「うん!」
ローゼフは感心した表情でピノに話かけた。
「いいぞピノ。礼儀正しいことは何よりだ。それでこそ私の自慢の人形だ」
彼はそう言ってピノの小さな頭を優しく撫でた。
「わーい、ローゼフに褒められちゃった!」
ピノは彼に褒められると、嬉しそうに床の上でハシャイだ。
「おやおや、元気のいい子ですな」
「ああ、そうだなパーカス…――」
「それにしてもこれからどうするのです?」
「何をだ?」
パーカスの何気ない質問にローゼフは隣で聞き返した。
「私は貴方様の話を聞いてピノを理解しましたが、他の者にはどう説明をするのですか? 彼をみたら他の使用人達はきっと動揺するでしょう――」
パーカスの問いかけにローゼフは優雅な表情で答えた。
「確かにその通りだパーカス……。しかし、今は我々で彼を見守ってあげようじゃないか。それに長い間ここは静か過ぎた。たまには賑やかでもいいだろ?」
彼のその言葉が長い年月の孤独を感じさせた。パーカスはその言葉を胸に受け止めると、静かに頷いて返事をした。
「左様ですねローゼフ様……。では、ピノについて私からも何か良い手はないか考えてみます」
「ああ、頼んだぞパーカス。お前だけが頼りだ」
ローゼフはそう話すと、彼の右肩にそっと手を置いたのだった――。