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眼鏡をかけた白髪混じりの老人は、後ろからグイッと少年を掴むと、上に持ち上げたまま怒鳴り声をあげた。
「それはローゼフ様の食事だ! 一体どこから入ってきた盗っ人め!」
執事の格好をした老人は、少年に向かって物凄い剣幕で叱りつけた。ピノはいきなり叱られると驚いて泣き出した。
「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」
「フン、謝っても無駄だ! どうせ下町の貧しい子供だろ!? お前みたいな下町の盗人の子供が格式高いシュタイン家にやすやすと入れると思うな! 入ったことを今から後悔させてやる! お前の親はどこにいる!?」
年老いた執事はそう言って容赦なく問い詰めた。だが、ピノは大泣きして返事をすることもできなかった。少年が泣き続けてると、年老いた執事は激怒した表情で再び怒鳴った。
「なんて図々しい盗人だ! なにも答えないなら今すぐ警察につきだしてくれる!」
そう言って物凄い剣幕で怒ると、ピノはワンワン泣いてローゼフに助けを求めた。
「わあぁぁぁん! ローゼフ助けてぇー!」
「お前、ローゼフ様を軽々しく呼び捨てにするな!」
ピノが火がついたように泣き叫ぶと、ローゼフは奥の部屋から騒ぎを聞きつけて慌てて駆けつけた。
「パーカス、何をやっている……!?」
彼は居間に入ると帽子とコートを脱がないまま、ひどく慌てた様子を見せた。
「これはローゼフ様、大変でございます! 今怪しい者を引っ捕らえました! こやつは貴方様のお食事を……!」
「ローゼフ助けてぇ!!」
ピノは彼の顔を見るなり、ジタバタ暴れながら助けを求めた。
「くっ……! パーカス、今すぐピノを離せ!」
ピノが激しく暴れると、パーカスは思わず左手をパッと離してしまった。高い所から落ちたピノは、体を地面に叩きつけられた。
「うわぁっ!!」
物凄い衝撃の音にローゼフは驚くと、持っているステッキを床に投げ捨てた。そして、慌ててピノのもとに駆け寄ったのだった。
「ピノ大丈夫か……!?」
彼はそう言って心配そうな顔で覗きこんだ。
「うわぁあああん! ローゼフ怖かったよぉ!」
ピノはその場で泣き出すと、彼に抱きついてワンワン泣いた。
「ピノ、部屋から勝手に出てはいけないとあれほど言っただろ!?」
「だってだって帰ってくるの遅いんだもん! ボクお腹空いて我慢出来なくて……! っひ……く、ローゼフごめんなさぁい……!」
ピノが泣いて謝るとローゼフは一瞬、呆れた表情をした。そして、黙って頭を優しく撫でた。
「よしよし。もう泣くな、わかったから泣かないでくれ――」
「ひっく……ひっく……ローゼフ……っひ……」
2人のやり取りを見ていたパーカスは、その場で思わず声をかけた。
「ローゼフ様これはどうゆう事ですか!? ちゃんとわかるように私に説明して下さい! この子は一体、誰なんですか!?」
「黙れパーカス! お前みたいな奴に話すことなど一つもない!」
「いいえ、そうはいきません! 私はこの家に長年お仕えしてきました! 今さら隠しごとはよろしくないかと思います! ましてやこんな小さな子供を……!」
パーカスは激怒した表情でローゼフに問い詰めた。だが、彼はなかなか話さなかった。
「ええい、うるさい……! ピノは人形なんだぞ!? 壊れたらどうする、もっと優しく扱え!」
「なっ、なんですと……!?」
ローゼフは怒り狂うと、おもわず秘密を口走ってしまった。その言葉にパーカスは驚愕した表情で目を丸くさせたのだった。
「し、しまった……!」
その瞬間、ローゼフはしまったと口にすると急に黙り込んだ。パーカスは聞捨てならない話に困惑すると、彼に思わず聞き返した。
「ローゼフ様、今の言葉は一体どう言うことですか……!?」
「お、お前には関係ないことだ……!」
「ローゼフ様、ちゃんと説明して下さい! 今貴方様はこの子を人形と仰りましたね!?」
「黙れパーカス!」
「ローゼフ様、ちゃんと答えて下さい!」
2人がその場で言い争うと、ピノはピタリと泣き止んで呆然とした表情でキョトンとした。