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――翌日の朝、彼はベッドで眠っていると、傍で誰かの気配を感じてふと目を覚ました。目を覚ますと目の前に見知らぬ小さな少年が彼の顔を不思議そうに覗き込んでいた。ローゼフは慌てて起き上がると大きな声を出した。
「だ、誰だきみは……!?」
彼の大きな声に少年はびっくりするとベッドから転げ落ちた。そして、ベッドの下から頭を覗かせると彼に質問に答えた。
「ボク? ボクは……んとね、ボクはまだ名前がないんだ。だからマスター早くボクに名前をつけてよ?」
小さな少年のその言葉にローゼフはビックリすると思わず聞き返した。
「マスターだと……!?」
「うん、そうだよマスター! ボクはマスターだけの愛玩ドールだよ!」
小さな少年はそう話すといきなり立ち上がって彼に無邪気に抱きついてきた。
「マスターがボクを誕生させたんだよ。ねぇ、あのこと覚えてる?」
「なっ、何を言って……!?」
ローゼフは小さな少年にいきなり抱きつかれると、混乱した様子をみせた。
「ボク、マスターにあえてよかった! ずっと独りぼっちで寂しかったんだよ? でもマスターがボクを誕生させてくれたから、もう一人ぼっちじゃないや。ねえ、ボクはマスターの理想のドールになれたかな?」
少年は可愛らしく首をかしげると彼の顔を無邪気に覗き込んできた。その無垢であどけない大きな瞳にジッと見つめられるとローゼフは急に顔が赤くなった。
「お、落ち着け……! キミは本当にあの人形なのか……!? だってあの人形には顔がなかった……! そ、それに何も身に付けてなんか……!」
ローゼフは慌ててそう話すと、自分の頭の中が混乱した。目の前にいる少年はとても可愛らしく、青い瞳に金髪だった。そして、天使の様に無垢だった。彼は少年の可愛らしさについみとれてしまった。
「当然だよ。ボクはあのままだと只の顔無しの人形だよ? でもね、マスターがボクを誕生させた時。ボクを心の中で理想を描いてくれたから、ボクはこの顔になれたんだ。マスターがくれたこの顔、けっこう気に入ってるんだ♪」
少年はそう言って、彼の前で無邪気に愛らしく微笑んだ。
「ほ、本当にきみはあの人形なのか……?」
ローゼフは確かめるように聞き返すと、少年は素直に頷いて答えた。
「ボクは愛玩ドール。マスターだけの為に生まれてきた生きた人形なんだ」
「私だけのドール……?」
「そうだよ、マスターを愛すことがボクの幸せ――」
「きみの……」
「ドールの幸せは2つ。マスターを愛す事、そしてマスターに愛される事がボクにとってドールとしての一番の幸せなんだ」
「愛、私がお前を……?」
「マスターはボクを愛してくれるよね?」
少年のあどけない無垢な表情に、彼は一瞬にして胸がときめいた。それは彼にとって今まで感じたことがない不思議な感覚だった。ローゼフはハッと我に返ると少年を手で払いのけた。
「なっ、何をバカなことを言っているんだ……!? 誰がお前なんかを……! このまやかし物め……!」
ローゼフはそう言って少年を突き放した。
「キャッ!」
振り払った勢いで小さな少年はベッドの下に再び転がって落ちた。床に落ちると少年はなかなか起き上がらなかった。その光景に彼はしまったと心の中で一瞬焦った。
「だ、大丈夫か……!?」
とっさに呼び掛けると慌ててベッドから起き上がった。そして、床に落ちてしまった少年の側に駆け寄った。