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「だ、大丈夫かきみ……?」
彼は心配そうに少年を抱き起こした。でもなかなか返事はなかった。少年は意識を失っている様子だった。彼は少年を抱き上げると確かに不思議な感覚を腕の中で感じた。少年は人間のようにぬくもりがあり、そして温かかった。呼吸する音を近くで感じ、髪は人間のようにサラサラだった。とても人形とは、思えないくらい少年は完璧なまでに人間と同じだった。ローゼフは、これが昨日まで顔がなかったあの人形だと思うと、彼は狐に摘ままれた感覚に陥った。
ローゼフは言葉を失ったまま呆然と立ち尽くして少年をジッとみつめた。彼は心の中でつぶやいた。これはどんなまやかし物よりも勝るモノだと――。まるで神が与えた贈り物のようだった。それ以上どんな言葉を着飾ってもその言葉しか頭には浮かばなかった。彼は不思議なまでに、その少年に魅了されたのだった。少年は瞳を開けると彼を見つめた。
「マスター……」
「すまん、いきなり叩いて……私も混乱したんだ」
「ううん。やっぱりマスター驚いた? だってボク人形だから……人形が生きてたら驚くよね……?」
少年にそう聞かれると戸惑いつつも正直に答えた。
「あぁ……」
「マスター、ボクのこと嫌いになった?」
「わからない。でも、嫌いにはならないと思う。何故だかわからないが…――」
戸惑う様子の彼に、少年は不安げな表情で聞き返した。
「マスター本当に?」
「ああ……」
そう言って答えると、少年は自分の両手を伸ばすと嬉しそうに無邪気に抱きついてきた。彼はまだ状況がのみこめなかったが、その無垢な感情を不思議と拒めなかった。少年を自分の膝の上に乗せると綺麗な横顔で話しかけた。
「私の名はローゼフ、きみは私だけの愛玩ドールだ。名はピノにしよう」
「ピノ?」
「ああ、そうだとも――」
そう言って少年に名前を与えると、ローゼフは穏やかな表情で微笑んだ。少年は彼から名前をもらうと、とても嬉しそうに無邪気にハシャイだ。
「マスターありがとう! 素敵な名前だね!? ボクは今日からピノだ!」
少年は彼の膝の上から降りると無邪気にハシャイで踊った。その様子は心から喜んでいる様だった。
「こら、やめなさいピノ! 朝からそんなにハシャイだら……」
彼がそう言いかけると、ピノはいきなりカーペットの上に躓いて倒れた。
「ピノ!」
ローゼフは名前を呼ぶと慌てて駆け寄って抱き起こした。
「あれ……? 足がうまく動かない。なんでかな?」
ピノはそう話すと、キョトンとした表情で自分の脚を不思議そうに触った。
「当たり前だ。お前はまだ、生まれて間もないんだから――」
彼はそう話すとピノに優しく微笑んだ。
「そうかぁ。ボク生まれてまだ上手く歩けないんだね?」
「ああ、だからまずは特訓だ! さあ、私の手を取りなさい!」
「うん! ボク、ローゼフ大好き!」
ピノは明るい笑顔で無邪気に笑うと、素直に彼の手をとったのだった――。