来訪者たち
いつの間にか夜の雑貨店の片隅にいる。喪失感があふれてくる。今まで見ていたものは幻想という確信がある。いつからか手本に水笛がある。
「そうなんですね」
受け取ったものとは色や風合いが変わっている。
「あああ……」
雑貨店の照明は明るくない。光を消して闇にくるまれようと思う。
雑貨店に
「あー、ちょっといいかな」
ぶっきらぼうな口ぶりは明治政府の役人らしい。民間人は従って当たり前に思っている。深雪は困惑を押し隠しながら会ってみる。
「うちは玄武隊とは関係ありませんです」
隊に付いていったことが幻なら、深雪は手伝いをしていないことになる。
「この方をどう思われる?」
「許婚を失くしても、けなげに雑貨店を営み生きておられる方です」
「ふむ」
長岡藩や会津藩や奥羽藩は列藩同盟とされている。藩士でも名だたる者は処罰、処刑された。是按のイメージに拠れば、雪女深雪はそんな身分を持ち合わせていない。
「雑貨店は続けていいぞ」
立ち話をしながら調査票に書きとめる。
深雪は立ち去ろうとする
「布良見様はどちらの戦地で戦われたのでしょうか?」
「ご無事だったのですか?」
「参謀は直接参加しない。隣の是按が現地であたった」
「吾も後方からの指揮でさほど危険ではありませんな」
2人は無名の兵卒が危険だと話す。その時期を無事に過ごせたものが作戦立案をできる。
斎は参謀ながらの苦悩を話す。
「……もどかしくもあり、命を握っていると思うとやりがいもある」
玄武隊に感情を持つものに、新政府軍の勝利が語られる。深雪は追い討ちをされる気がして落ち込む。しかし涙は昨日で枯れてしまって流せそうにない。
斎は深雪がうなだれているのを見て部下に語りかける。
「ふふ……是按は
「いえ、私にはお梅がいますから!」
斎は無粋だと思いながら、彼らしいと納得する。
「固い男よ」
片足の角度を直角に変えて横丁に戻っていく。
深雪のいる夏の雑貨店は、強いクーラーが効いたようで気持ちがいい。
妖しが店主なのに物怖じしない人間の客が、今日もやってくる。
「すみません、品物を拝見させてもらっても?」
気持ちいいを通り越して寒い。紳士はぶるっと震えると、入り口の預かり棚にステッキを置く。かわりにスポンジメーカーを手に取る。要らないと思ったのか棚に戻し、別の品物を手にする。せわしない。
「このらせん状の金属の棒は何に使うのですか?」
この棒で混ぜると箸で混ぜるのと違って一瞬で混ざるという。
「バルトロメオさんによる
解説をしていると1つ目の豚顔妖怪が入ってくる。裏横丁の料理長らしいが、作っている人物が妖怪だとは誰も思わない。客がトイレを使うと深雪の店のものを借りにくる。
彼は振り向くと、いつも余計なことを話す。
「叔父さん。
お得感はない。紳士は納得の表情で泡立て器を商品棚に戻した。
豚男は殺気を放つ深雪を見ないで帰っていった。残された紳士は日用品棚を見て話す。
「パイプ用に赤燐マッチあるかな?」
「暖炉用やアルコールランプ用ですけど、よろしいでしょうか?」
入っている箱から取りだして丁寧に手渡す。これではマッチ売りの少女だ。