120章 ハルキの過去
ペットに餌を与えていると、ハルキから声をかけられる。
「アカネさん、話をしたいです」
「うん。わかった」
「私の部屋に来てくれませんか」
「なごみや」の部屋の数は、2つしかなかったはず。ハルキはどの部屋を使っているのだろうか。
「ハルキさんの部屋はどこなの?」
「ミライの部屋を借りています」
「ミライさんはどこで生活するの?」
「フタバの家で生活しています。こちらに帰ってくるときは、母と過ごしています」
生活することが少なくなったので、妹に部屋を譲ったのかな。彼女の家の事情については、未知な部分が大きいため、こちらからは何ともいえない。
「絵を描くようになってからは、フタバの家で過ごしています。一緒になれたと思ったら、すぐ
に別々になりました」
ミライと一緒に生活したい、ハルキの表情はそのようにいっていた。
部屋の扉を開けると、男性の遺影が目についた。目尻の皺、肌の色からして、年齢は25~27と思われる。
写真を見つめていると、ハルキがゆっくりと口を開いた。
「部屋に飾られている写真は、私の旦那となります」
「旦那さんはどこにいるの?」
ハルキの表情が曇りが見られた。答えを聞いていないにもかかわらず、どうなったのかを察した。
「5年前に天国に行きました」
働き盛りの男が命を落とす。「セカンドライフの街」は、刑務所さながらだ。
「家族を助けるために、地雷の仕事に挑戦しました。地雷を2個ほど取り除いたところで、爆発
に巻き込まれて、あの世に旅立つことになりました」
家族の生活を守るために、自らの命を犠牲にする。「セカンドライフの街」は、いろいろな意味で狂っている。
「旦那さんはどうして、地雷の仕事をしたんですか」
「旦那が身体を痛めてしまったために、仕事ができなくなってしまいました。本来ならフォローするところですけど、子育てでいっぱいいっぱいでした」
「セカンドライフの街」に、失業保険は存在しない。身体を痛めてしまったら、収入が途絶えることになる。
「無収入の状態が続けば、借金罪で逮捕されてしまいます。その状況を打開するために、旦那が地雷に挑戦するといったんです。私は生きてほしかったので、ストップをかけました」
ハルキの頬から、涙がこぼれる。
「家族が寝ている間に、地雷処理の仕事に行きました。起きたときには、旦那はあの世に逝ってました」
目を覚ましたら、大切な人がいなくなっていた。物語としてはあまりにも悲しすぎる。
「お金をもらってから、生活は楽になりました。でも、心は癒されることはありませんでした」
ココアとは異なり、旦那のことを愛していたようだ。12歳で結婚しても、恋愛感情は持つことはできるようだ。
「一時的にお金をもらえても、生活費はかかってしまいます。時間の経過とともに、家にあったお金は、どんどん減っていくこととなりました」
旦那が死亡したため、一人で稼いでいく必要がある。長期的に考えると、マイナスの要素が大きくなっている。
「バナナ生活をしていたなら、お金はかからないんじゃないの」
バナナはタダ同然であるため、家計を圧迫しない。それだけを食べ続けていれば、生き延びる
ことができる。
「食費はかからないですけど、電気代、水道代、ガス代はかかります。こちらでは給料に比べ
て、電気代などが高めに設定されています。一番の出費は土地の利用代金です。1年に200万ゴー
ルドが必要となります」
生活を切り詰めようとしても、土地の利用代などが重くのしかかる。「セカンドライフの街」
は、あまりにも厳しすぎる。
「貯金も底をつきかけ、絶体絶命のピンチに陥ります。子供を放置するくらいなら、心中しようかなと思いました」
まともな感覚を失ったことで、子供に手をかけることはある。それを聞くたび、悲しい気分になっていた。
「本当に困っていたときに、1億ゴールドの寄付があったと訊きました。ほとんどが食べることすらままならない国で、大金を寄付する人がいるとは思いませんでした」
マツリからの話によると、一部の人は巨額の富を築いている。バナナ生活の人からすれば、信じられないような世界を生きている。
「寄付があった日に、1000万ゴールドをもらいました。そのこともあって、私たちは生き延びることができました」
タイミングが少し遅れていたら、ハルキたちは絶命していたかもしれない。大切な命を救えたことに対して、胸をなでおろした。
「一時金が支給されたときは、さらに驚きが大きかったです。1年で5000億ゴールド以上の収入は、通常ではありえません」
超能力関連の仕事をすることで、桁外れの収入を得られる。一般並の給料であったなら、バナナだけの生活を送っていた。
「地雷除去の話を聞いたとき、誰がやったのかと思いました。しばらくすると、あかねさんであることがわかりました。どれくらいで地雷を除去したんですか?」
「正確な時間は覚えていないけど、30分くらいだったんじゃないかな」
「30分で終えたんですか?」
「うん。周辺にバリアを貼った状態で、炎の魔法を使ったんだ。そうしたら、全部の地雷を消すことができたよ」
「アカネさんにしかできないやり方ですね」
「そうかもしれないね・・・・・・」
「アカネさんが地雷処理をしたおかげで、住民の土地の利用代、電気、ガス、水道代は無料となりました。お金が配られるだけでなく、固定費の削減にもつながりました」
お金を配るだけでなく、土地の利用代などが0になっていたのか。付与金はあらゆる面におい
て、住民の生活を救ったことになる。
「これからは楽しく生きることができそうです。本当にありがとうございました」
「ペットのところに戻ってもいいかな?」
「お時間を取らせて、すみませんでした。子供がフリースクールにいるので、迎えに行ってきます」
ハルキは一例をしたあと、部屋を出ていった。アカネも同じようにしようとしたものの、写真の男性を見つめてしまった。ハルキの結婚した男性は、高校時代に交際していた男性と、どことなく雰囲気が似ていたのである。