第5話 龍王の決断
襲龍王国王宮。
王宮内には、
歴代の龍王の自画像がずらりと壁に並んでおり、
龍王に仕える騎士団の姿や売ればいくらになるか
分からないようなダイモンドで作られた彫刻など、
王宮と呼ぶに相応しい空間となっている。
そんな王宮内に存在する一室 -龍の間- では、
何やら騒がしい会議が行われていた。
「どう対処しろってんだぁ！!」
そう怒号を飛ばすのは、龍王直属の騎士団長グリムだった。
がっしりとした体格で、キリッとした顔つき。
顔には複数の傷があり、まさに戦士という印象だ。
戦闘において敵無しと言われているが、少々脳筋な男だ。
龍の間では今まさに、緊急で会議が行われていた。
「落ち着いて下さいな。グリム」
そう促すのは龍神祭宮(りゅうじんさいぐう)宮司 エキドナ。
艶やかなロングヘアの龍族。
妖麗という2文字が似合う容姿をしている。
龍神祭宮とは、神話に登場する
龍神様を祀っている大社のようなもので、
このエキドナは龍神のお告げを頼りに動いていると常々発言している人物で、
腹の内がわからない事でも知られている。
「エキドナァ！貴様はいつも楽観的で、
この国を滅ぼすつもりかぁ！」
「何をおっしゃいますの…貴方こそ戦う脳しかもたず会議の場ではいつも早とちりで怒号を飛ばすだけで、
何も解決しませんじゃありませんの」
「貴様ぁ…っっ」
グリムが席を立ち、エキドナに殴りかかろうとした。
しかしグリムの足が動かなかった。
こうなる事を分かっていたと言わんばかりに、
グリムの足を魔術で固定している人物がいた。
「落ち着けと言っている」
冷静に、諭すようにそう話すのは龍国きっての魔術師サジュ。
スタイリッシュなシルエットで、男性ながら綺麗な顔立ちをしており、
決して魔術師には見えない風貌をしている。
国民からの人気もある。
龍王ミドラスはそのやり取りを
まるで自分の子供達を見るような愉快な目で見つめていた。
「それじゃあ…本題に戻るぞ」
低く年季の入った声で龍王が発言する。
覚えておけと言わんばかりに睨みを効かせるグリムと勝ち誇った顔をしたエキドナは
ミドラスの声で静かに席に腰を下ろした。
「この王国では近年、不審な光が目撃されておる。
かつての神話にも描かれている『闘気戦争』を
引き起こした原因不明の光とやらを彷彿とさせる」
襲龍王国では近年、原因不明の光が目撃されているという。
ミドラスは、この光を神話に登場する原因不明の光と
結びつけ危険と判断。
その対処法について議論している最中だった。
「しかし、ミドラス様。その光の事も『闘気』に
ついても記録は残されてない。結局、ただの神話の話だ」
神話と結びつけるなんてアホがする事だと言わんばかりに
ありえんとグリムは反発する。グリムは神話など信じない。
自分の目で見たものだけを真実とし、幻想を嫌う。
「神話なんかじゃないですわ」
そう言い切るのはエキドナ。
彼女は宮司というだけあり、神話を信じて生きている。
さらに、私は龍神様のお告げも受けているわと話した。
そう話すエキドナをグリムは下衆を見るような目で見ていた。
「神話…ですか。ではそもそも何故、この世界に魔術が存在し、
伝統が存在し、神話上の出来事を祝した統歴という暦に
従って生きているのか。それだけの情報を見るとやはり、
神話だなんて馬鹿にすることはできない」
冷静に話すのはサジュ。
確かに、この世界は統歴という暦で進んでおり、
闘気という存在が神話で伝わり、魔術まである。
だが、闘気戦争に関する情報は一切残されていないのだ。
故に、原因不明の光の正体や、
闘気に関することなど調べる術は存在しない。
闘気戦争が神話と馬鹿にされたとしても事実だとしても、
誰も確定的な発言はできないのだ。
するとエキドナはにやりとした表情である提案をした。
「では、ミドラス様。私に少し思い当たる節がありますので
まかせてはいただけないかしら」
その発言に誰がお前なんかに託すかとグリムは笑う。
そんなグリムを尻目にミドラスは発言した。
「ほう…。助かる。
それではこの一件はエキドナに任せる事としよう」
そうミドラスが発言すると龍王様…！とグリムが焦り席を立つが、大丈夫だと一言言いグリムを治めた。
エキドナは口に指をあてながら、何やら不敵な笑みを浮かべ
では後日来ますわといい龍の間を去っていった。
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「パーパ。マーマー」
そんな俺はその時、
何かが接近してくるのがわかる感覚が芽生え始めていた。
