第3話 近藤かける。転生します
女神(仮)の話を聞いていて、
徐々に死んだ実感が湧いてきた。
あの後、俺はさらに女神(仮)から
色々と話を聞かされた。
この世界に召喚される
人間の数が多くなっている事。
統一された現代の世界に、再び怪しい兆しがある事。
そして俺はこの世界を救う救世主だという事。
しかも話を聞く限り、最強補正が付いてない。
逃げるか……ってすでに死んでるか。
ていうか石盤に描いてあった
『召喚されし者、生前に悔いある者に限定する』の意味は結局分からなかったな。
「そいえば女神さん」
何でしょうかという顔でこちらを見つめている。美しい。まさに女神。
俺は石盤の事でまだ気になる箇所があった。
「この五つ目の『世界を救い、己の願いを叶えよ』ってどういう事なんですか?」
女神は言い忘れてたみたいな表情で俺に言葉をかけた。
「その項目は、見事世界を救う事ができた暁にはノルマンティア様の名において、
召喚された者の願いが叶うというものでございます」
ほう。という事はもしかして、元の人生をやり直す…とかでも叶うのかな。
まあいいや。今はそんな未来の話をしてもしょうがないし、そもそも生きていける自信がない。
「かける様…どうかこの世界をお救い下さい」
救いたいという気持ちはある。
だってこんな綺麗な方に頼まれてるんだよ!?
まあ実際はノルマンティアとかいうおっさんの頼みだと思うけど。
「そう言われましても…ね」
こんな闘気やら龍神やら神話でしか聞いた事のない世界で対抗手段の無いただの人間である
俺に何ができるというのだ。
「もし、魔術や剣術などが無いから何も出来ないとお考えのようでしたらその心配はありません」
そう自信満々な顔をしながら女神(仮)は言ってきた。
ああ、そいえばこの女神(仮)は俺の思考が読めるんだった。
だがなんと俺の一番の懸念点は心配しなくてもいいらしい。
女神様が言ってるから大丈夫だ。多分。
「かける様には、この世界に新しい人物として転生していただくので、
肉体は生前の世界のものではなくこの世界に適用できるものになります」
おっと、ガッツリ転生だ。本当に転生できちゃうのか。たしかに本当に世界を救うんだとしたら
やはり生前の肉体じゃ1日すらもたないだろうからな。超安心!
「ですが……」
安心した顔で女神様に話すと、何やら女神(仮)が悩んでいるような顔をしている。
「近年召喚されてくる方のほとんどが、幼少期にコンタクトが取れなくなるため、
おそらくその辺りで死を迎えております…」
えっ…なんかこの世界いちいち設定厳しくないですか!?
序盤から話を聞いていると、もはや異世界転生しずに死んだ方が楽じゃないか!?
何となく予想はつくが一応聞いてみた。
「死因とか…わかってませんよね」
絶望に震えるような声で尋ねたため、
女神(仮)に俺の言いたいことは一瞬で理解された。
「かける様の予想通り、分かりません。ですので、かける様を安心させられるアドバイスはできません」
だよな。そうだと思った。
何だこの生まれた瞬間に死んでも普通だからって感じの世界。流石異世界とでも言うべきか。
「ですが、かける様なら大丈夫です。それに、今回迫る危機が闘気に関係するものかは分かりません」
何を根拠にだ。全くもって俺をはやく安心させて転生させたいだけという目論見が丸見…
「かける様はなんだか…」
女神(仮)は俺の言葉に被せるように何かを言いかけ、
少々赤面しながら何でもないですと続きを話す事をやめてしまった。
すごく続きが気になるところではあるが、赤面した女神様が可愛かったので許そう。
それに、闘気に縛られていた世界は7000年前にノルマンティアが統一した。
今回迫っている危機が闘気でなければ関係のない話だ。
そう呑気な事を考えていると唐突に女神(仮)は話した。
「それではかける様、そろそろ転生をはじめますっっ」
何やらあわあわしつつ女神(仮)は祈りを捧げ始めた。
「ちょ、まだ分からないことがありすぎて…!」
「生きてゆけばいずれ分かることです」
その発言通り、
分からない事は自分で調べろと言わんばかりのスピードで
俺の身体の周りに黄色い光が蛍のように集まってくる。
「では、転生を始めます」
女神はキリッとした表情で宣言すると転生魔法のようなものを唱えた。
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『近藤かける、ノルマンティアの名のもとに、転生せよ』
始まる。俺の異世界転生生活が。多分すぐ死ぬ。
『リンカネーションッッッッ!!』
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詠唱と共に、俺の身体は光に包まれながら消えていく。
不思議と心地はいいが、俺には最後に一つだけ聞きたいことがあった。
「最後に!!め、女神様の名前を……っ!!」
光に包まれている身体を仰け反るように聞いた。
「私の名は…ソフィアとでも名乗っておくわっ」
女神(仮)はイタズラな笑顔でそう答えた。
「あと…多分最後ではな……」
何か言ってたけど聞き取れなかった。まあいいか。
徐々に消えてゆく自分の身体。ああ、本当に転生するんだ俺。
不安しかないが、何だか今のソフィア様の笑顔で来世も頑張れちゃいそう。
俺は転生する瞬間、
今度こそ強く生きてやると誓った。
「てか最後に聞くこと合ってたかな」
彼が再びソフィアの名前を聞き、
敵意をもつ事になるのは5年後の話だった。