第2話 疑惑の神話
ーーああ死んでしまったかーー
でもいいか。やり残した事は特にないし、
いっその事、異世界転生したいだなんて幻想を抱いていたし。
てか俺、なつき先輩の事少し好きだったんだな。
死んでから気づくなんて、そんな手遅れな話はないが。
かけるは、生前気づかないフリをして生きてきた感情の清算をしていた。
なつき先輩に好意をもっていた事。
もっと生きる事を全うすればよかったという後悔。
もし次人間に生まれ変われたらこうしようとか。
ん?
ーてかなんで俺死んだのに考える事ができてるんだ?ー
「やっと気づきましたか」
唐突に背後から聞こえた声に思わず振りかえる。
その声は透き通るような美声にも関わらず、
なぜか背筋が伸びるような印象をもった。
「え?ここは…」
何も理解をしていない俺は考える前に問いかけていた。
「ここは死後の世界です」
「と言っても、全ての人間がこれる場所ではありませんが」
そう語りかけてくる人物は生前、アニメでしか見た事のない
いかにも女神という称号が相応しい容姿をしていた。
触ったら割れちゃいそう。
「死後の…世界?」
俺は思わず呆けた顔で聞き返した。
「はい」
嘘だな。当然の疑いである。
こんな簡単に異世界転生イベントみたいな事があっていいのか。いや罠だ。
多分俺は死んだと騙されて、今世界のどこかの地下室にでもいるんだ。
小学生の時にやった防災訓練のテントの中みたいだし。
とりあえず探ろう。
「とりあえず探ろうとは...?」
美しい声で女神(仮)は話した。控えめに言って…好きな声だ。
「え」
声と同時に、なぜか女神(仮)の顔が赤くなっていた。
察してしまった。多分女神(仮)は俺の思考が読める。
生前、適度なアニメ鑑賞(週7)をしていた俺には分かる。
てかこんな俺の好きという思考が読めたくらいで顔を赤くするとか…可愛いな。
「ゴホンッ」
見上げると、梅干しのように赤面している女神(仮)は軽く咳払いをして顔を逸らしていた。
とにかく、なにも情報がない。とりあえず俺は色々と聞くことにした。
「もしかして女神さん。僕の思考が分かる……とか?」
「全員の思考が読めるわけではありませんっ」
なんか凄く取り乱している。女神(仮)が。
「ごく稀に、貴方のように思考が見えてしまう方もいるというだけです」
全員が?ごく稀に?意味がわからない。
俺以外にもここに来る奴がいるのか?
「女神さん。その言い方だと、僕以外の人間もここにくる事があるのですか?」
俺だけという特別感が削がれる悲しみにくれた声で話しかけた。
「はい。ここは死後の間ノルマンティア。
『生前に後悔を残した人間が召喚される場所』です」
ほう。死後の世界ってわけか。ありえない。
「本当は今僕の事を拉致、監禁しているだけですよね?」
俺は至って真面目に質問をした。
「いえ、貴方は死んでいます」
信じるしかなかった。というよりも信じざるを得ない。
不思議とそう思わされる声色だった。
「貴方にはこれからいくつか伝えなければならない事があります」
何やら早急に伝えたいことがあるような面持ちだ。
「これから話す事は全て真実です。これ以降、疑念を払い私の言葉に耳を傾けて下さい」
色々意味がわからなく、頭がパンクしそうだがとりあえず状況把握も兼ねて耳を傾けることにした。
「時は遡ること7000年前、この世界は7つの大国に分かれていました」
女神(仮)は、淡々と説明をはじめた。
それにしても、ちょっとワクワクする始まり方だな。
いいじゃないか。男なら、嘘だとしてもこういう話は好きだろう。
ワクワクはしているが……。
「龍末神(りゅうまつしん)ドナルガティが収める襲龍の国ヨドラル」
「電光神(でんこうしん) フラプトが収める電光の国メリト」
「幻想神(げんそうしん)オルが収める幻想の国ファントム」
「楽宴神(らくえんしん)ドナルが収める楽宴シャンドラ」
「大刀神(だいとうしん)ムラマサが収める日ノ国」
「後の二国は……今はいいでしょう」
はあ。神話だ。全くもって神話レベルの話だ。
「7つの大国は、『不戦の契り』でバランスを保っていました。
しかしある日、原因不明の光に包まれた世界はその後、
『闘気』というものに支配される事になりました」
「闘気?」
「はい。光が晴れると、『闘気』というものが使える世界になっていました」
闘気…か。生前の知識で考えると、強さを示す数値的なものだろうか。
てか原因不明の光…?今でも分かっていないものなのだろうか。
「その闘気というのは具体的になんなのでしょうか?」
気になる。
「闘気というのはかつての世界において、一種の魔術のようなものです」
やはりそうか。生前アニメ鑑賞が趣味だった俺にはワクワクする話ではあるが、
いざとなるとそんな世界には行きたくないな。
「魔術がまだそこまで普及していなかったこの世界は、闘気の登場により一気に戦乱の世と化しました。
武力の象徴となる闘気は、当然権力に直結しました。結果、闘気の上昇を追い求め各国が侵攻を始めます」
「というと…権力がほしい者が闘気上昇をするため侵攻をし、闘気によって世界を統一しようと?」
「察しの通りでございます」
悲しげな女神(仮)の表情は、この話を信用させるには充分なものだった。
「具体的な上昇条件は未だ分かっていないのですが、闘気にはランクがあり、闘気のランクが低い者は、高い者に傷一つつけられなかったといいます。闘気には確認されていたもので下から
闘気とうき、伯気はくき、烈気れっき、鬼気ききなどがあります」
「具体的な上昇条件が分かっていないにも関わらず、侵攻を…?」
「はい。一説によると、闘気をまといし者を倒せば上昇するともありますが、
闘気が上がらない者もいるため、確証はありません」
なんという無責任な話だ。
ただ、普通に考えるなら倒せば上がると思うのも無理はないな。
何故だろう。人は学ばない。生前いた国も過去に何度も戦争をしているが、また繰り返す。
それはどこの世界でも一緒なようだ。
「そして闘気によって混沌と化した世界を統一したのが、統一神ノルマンティアです」
「その統一神ノルマンティア?は国の説明で名前が出てきていないのに、統一できるような身分の方だったんですか?」
「実は…統一神ノルマンティアという人物については、あまり詳細がなくほぼ全ての記録がありません」
「ただ、統一神ノルマンティアが残した産物として、この死後の間ノルマンティアがございます」
なんだそれ。世界を統一した人物なのに記録がない?どういうことなんだ。ましてや国も収めていなかった人物がどのように…?何となくは理解したが、そんな世界で俺に何が出来るというのだろうか。
「そうなんですね…。先程女神さんは、『生前に後悔を残した人間が召喚される場所』と言っていましたが、
何か関係があるんでしょうか」
そう発言すると、女神(仮)は魔法のような術で、石盤を出現させた。
「この石盤は、ノルマンティア様が描いたとされているものです。ここに記されているのが、死後の間でお伝えできる事です」
俺は思わず食い気味に石盤を覗き込んだ。
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一.ノルマンティアに召喚されし者、全てを受け入れよ
二.世界危機の時、ノルマンティアに召喚されし者現る
三.死後の間ノルマンティアに召喚されし者を救世主とせよ
四.召喚されし者、生前に悔いある者に限定する
五.世界を救い、己の願いを叶えよ
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女神(仮)は、石盤に目を通し終わった俺の顔をやたら微笑みながら見ている。
嫌な予感がする。
「待ってください。今まで何人ほど召喚されてきましたか…?」
「わかりません。ただ…最近は召喚されてくる人数が増えた気がします」
嫌な予感がする。
かなり察しはついていたが、それでも俺は聞きたかった。生きていますよと。
「その方達は今何を…?」
「1人残らず、コンタクトをとることが不可能になっています」
多分死んでる。いや確実に。
「はああああああ!!???!?
死なない最強勇者として転生されてハーレムライフを送ると思っていたのにいいいいぃぃぃぃ!!!」
珍しく感情の全てが言葉として発声されたのは言うまでもないだろう。