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第1話 突然の死

―貴方がこの世界に来て本当によかった―


生きる者は、誰しも後悔をする。
地球人、どっかの異世界の住人、
もしかしたら動物とかも。
誰でも過去に後悔の一つや二つはあるだろう。

でも俺は違う。と思っていた。

俺はどこにでもいるようなただの若者だ。

近藤かける、21歳無職。

初対面の人には、
鼻が高く、綺麗な顔だとよく言われる。

コミュ障ではないが、
必要以上に人と仲良くなりたいとか、
どこかに遊びに行きたいとは思わない。
いや、行く人がいないが正しいかもしれないが。

それでも、大抵の物事は人を頼らなくても
何とかなるし、困っている訳では無い。

必要以上に人と関わらなくてもいいとは思っているが、俺も年頃の男だ。彼女くらいはほしい。俺の中の最大の矛盾点だ。

無職とは言ったものの年齢的には大学生で、
今は近所のラーメン屋でアルバイトをして
生活をしている。

やりたい事は特になく、
学校にも通っていない。
実質バイトが生甲斐みたいな節はある。
(いや、まあバイトもやりたくないが
生きていくためには必要だし…)

お察しの通り、若さを無駄遣いしている。
俺はこの歳で時間をただ消費している生きる屍だと感じている。
自殺志願者ではないが、特にやり残してる事もないから別に死んでもいいと思ってる。

そんな俺のプライベートをあえて話すとしたら...そうだな。
バイトの無い日は適度なアニメ鑑賞と適度な性活をしている。
あとは特にない!!!本当に普通だ!うん。


ーー

ラーメンを茹でるお湯がブクブクと
自分の人生への心の焦りを表現しているようで
ついつい見てしまう。

お察しの通り、今はバイト中だ。
このラーメン屋は家から近いという理由だけで応募し、
見事採用を勝ち取った。

続けていくうちに店長の人柄や、
アルバイトの先輩との会話のおかげで人と話す機会も少しだが増えた気がする。

何となくだがやりがいも感じてきた頃だ。


「この先、特にやりたい事も見つからずただ歳をとっていくのかなあ」

なんて事を考えながらキッチンで皿を拭いていると……

「かける君、3番卓のつけ麺。はいっ」

そう声をかけてきたのは大春なつき22歳。
ラーメン屋の先輩だ。そして人生でも。

容姿端麗。仕事もでき、通っている大学では
人気者らしい。まさにセンパイだ。
そして1番の目印は…髪の毛の色がピンクだ。

それにしてもなぜラーメン屋で
バイトしているのか分からない。
正直、もっとカフェとか
そういう…オシャレな所がいいと思う。
そんな先輩曰く、俺は仕事だけはできるらしい。

まあ頼られてるってことでいいよな…?
俺はやりたいことがない。ていうかこの世に大義名分を持てるものがないと言った方がいいのか。そいえばなつき先輩はやりたい事とかあるのかな…

「先輩は何かやりたい事とかありますか?」

珍しく俺がプライベートな話を振るので、先輩はキョトンとした顔をした後、ニヤリと得意げに話した。

「どうしたのいきなり。まさか私の事知りたくなった?」

なつき先輩はこういう人だ。

「違います....真面目な話です」

この人にプライベートの話を聞かなかったのは、
俺自身そういう反応をされるとどうすればいいか分からなくなるからだ。

「んー…それなりにはあるかな?」

そうか、やっぱり自分だけなのかな。
21歳にして、この世に未練はない。
いっそ今世は諦めてアニメみたいに異世界に
でも転生したいとか思いはじめている。

「でも、かける君はやりたい事とか見つかったら何でも上手くやっちゃいそうだよねっ」

なつき先輩は、こうして褒めてくれる。
そういう性格が人気者になる一つの要因なのだろう。

「そんな事ないですよ。先輩は大学でも人気者で凄いと思います」

と何も考えずに発言した。

「そっそう…?」

なんか顔が赤い。
そんな事を話しているとあっという間に
バイトが終わる。

「お疲れ様でした」

いつも通り、帰りの支度をしながら挨拶をする。

「ん。お疲れ様!」

そう返事を返してくれるのはなつき先輩だ。

「かけるくん次のシフトいつだっけ?」

なんだかなつき先輩は、
シフトを聞いてきているだけなのに自分に好意があるんじゃないかと勘違いしてしまう程魅力的だ。

「次はたしか…明後日ですね」

「そっか!また一緒だねえ。よろしく」

(やけにイタズラな言葉を使ってくる。
何なんだこの先輩は…)

「そうですね。よろしくお願いします」

「あっ今日は一緒に帰ろっか?」

謎の誘いだ。ちょっと可愛いしやめてほしい。

「いえ、大丈夫です」

平然を装いながら俺は返事をした。

「えーつれないなあ」

そんなやり取りを終え、いつもの帰宅道。
俺はT〇itterをみたりYou〇ubeを見たりとか前を見ていないことが多い。
しかもイヤホンも付けてるので、周りの音は聞こえていない。
死亡フラグはビンビンだ。
いつでも転生できる準備はできてるよ神様と言わんばかりに。

おっと別に死んでもいいとは思ってるが、
さっきも話したように、決して自殺志願者ではない。

明日の予定は…特にない。

そう!
バイト以外特に何も予定の無い人生を歩んでいる!
何度でも言ってやる!
21歳にしてもうこの世界は面白い事がなく、飽きている……!!

ーーと俺は思っていたーー

「ブゥゥゥゥゥゥーーー!!!」
「キィィイイイイイイイッッ」
「え」
「バゴンッッッッッッ」
辺りに低く鈍い衝突音が鳴り響く。

痛い。
全身に激痛を超えた痛みが走る。
状況がよく分かっていない。
バキバキに割れた携帯の画面に反射する
自分を見て理解した。

ーー俺はトラックに跳ねられたーー

唐突の事に、心臓の鼓動がどんどん早くなる。
焦りなのか、身体の異常なのかはもう分からない。
ただ分かるのは何故か自分が「死にたくない」と思っている事だ。

「どうしよう…どうしようどうしようどうじよう死にだくない…まだ死にだぐないよ」

出血が止まらない。
いきなりの死の直面に気持ちの整理が
追いついていないのが、
死の恐怖心と今世への未練を増幅させた。


「まだ…21ざぃで…ごれがら、どもだぢとがもでぎたり……」
「もっど色々…やりだいこと……もっど……」

それ以上声はでなかった。


ーもっと真剣に生きればよかったーー

かけるは初めてそう思った。
この世界がつまらなかったのではなく、
自分が何もしていなかっただけだったと。
生きている間にしかやり直しはきかない。

意識が遠のいていく感覚はどこか心地よく、
今更そんな後悔をしても遅いと神に言われているようだった。


「はぁ。やり直じだぃ...」


そう言い残したかけるが転生し、
語り継がれる数々の伝説を残すのは、まだまだ先のお話である。

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