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オネの1日のヒローカ詣 その3

 ヒローカのお墓の向こうには街道がまっすぐ伸びていまして、その左右にたくさんの屋台が出ていました。
 商店街組合に加盟している皆さんの姿が、屋台の中にお見受け出来ます。

 ……と、いうことは、ここの屋台は辺境都市ナカンコンベの商店街組合に加盟していれば出店出来るってことなんだろうか。
 でも、それにしては、年末に商店街組合に挨拶回りに行った際には、特にそんな話題はでなかったような気がするんだけど……

 僕が首をひねっていると、クローコさんが
「ここの屋台はぁ、この辺境都市ナカンコンベで10年以上商売をチェケラってると参加出来る、みたいな?」

 ん~……多分、今の「チェケラってる」って「続けている」って意味なんだと思うけど……と、なると、辺境都市ナカンコンベで10年以上商売していないと、出店する資格がないってことなんでしょう。
 そうだとすると、コンビニおもてなしの5号店東店がこの街に出来てからまだ1年くらいしかたっていませんので、声がかからなかったのも納得です。

「この街で長年頑張った、そのご褒美ってことで屋台を出させてもらえているのかもしれないな」
 周囲の屋台を見回しながら、僕はそんなことを思っていました。

 
 屋台には、どこも大勢の人が集まっています。

 その多くは食べ物の屋台なんですが、中には人形らしき物を販売している屋台もあります。
 どうもそれ、ヒローカをかたどった人形らしく、
「今年の商売繁盛を祈念していっちょ買っていくか」
「おう、こっちにも1つくんな!」
 そんな声が、その屋台に集まっているお客さんから聞こえていました。

 何やらゲームみたいなものをやっている屋台もありますね。

 そんな屋台の数々を前にして、僕の腕に抱きついて歩いているパラナミオは
「わぁ……あれ、美味しそうです……こっちも美味しそうです」
 周囲を見回しながら嬉しそうな笑顔をその顔に浮かべています。

 で、それを受けまして、

「みんな、食べたいものがあったら買ってあげるよ、ただし1人1つまでだからね」
 僕は、みんなにそう言いました。
 すると、
「わーい! パパありがとうございます!」
 そう言って飛び跳ねたパラナミオを筆頭に、子供達全員が歓声をあげていったのですが。

「さぁすが店長ちゃん! ゴチになります、みたいな!」
 って、なんでクローコさんまで、アクセサリーをじゃらじゃらさせながら飛び跳ねているんですかね?

◇◇

 ほどなくして……

「店長ちゃん、これやばいよ! マジやばいうまさだよ!」 
 クローコさんは、僕が買ってあげた串焼きを食べながら歓声をあげています。

 ……えぇ、しっかり買わされましたとも。

 でもまぁ、クローコさんはコンビニおもてなし4号店の店長として毎日すっごく頑張ってくれているわけですし、たまにはこんな日があってもいいか、と、思い直した僕だったりします。

 しかしあれですね……

 僕も、クローコさんが食べているのと同じ串焼きを食べているんですけど……
「うん……確かにこれは美味しいな」
 その肉を食べながら、その味に感心しきりだったんです。

 僕だけじゃなく、パラナミオをはじめとした子供達も、
「パパ、このお肉おいしいれふ」
 口いっぱいにお肉をほおばりながら、満面の笑顔を浮かべていた次第なんですよ。

 よく見ると、その串焼きの屋台を運営していたのが、おもてなし商会の常連客の方だったものですから、
「このお肉ってなんの肉なんです?」
 そうお聞きしてみたところ、
「他のお客さんには教えてないんだけどね……最近見つかった地下迷宮の中に巣くっている漆黒狼ってヤツの肉なんですよ」
 僕の耳元に手を当てて、こっそり教えてくれました。
「漆黒狼ですか」
「そう。かなり大柄な狼なんだけどね、暗闇に姿を隠す能力をもってまして、その特性をいかして洞窟や地下迷宮の中に棲息している魔獣なんだ。この魔獣が結構強いもんだからさ、なっかなか捕縛されなくて、市場にも出回らないんだけどさ、今日はオネの月の1日ってことで大盤振る舞いしてるってわけさ」
 そう言って笑う店長さん。

「ちなみに、その地下迷宮ってどこにあるんです?」
「え? タクラ店長さん、興味あるんです? でもねぇ、あそこは相当危険ですからねぇ……命の保証は出来かねますけど、それでもよろしいんです?」
「えぇ、大丈夫です。無理そうなら諦めますんで」
「まぁ、そういうことなら……ただし、お教えするのには条件が1つあります」
「条件ですか?」
「えぇ、もし漆黒狼を仕留めることが出来たら、私にも売ってくださいな……出来れば、ファラさんを通さずに……」
 そう言いながら僕を拝んでくる店長さん。

 ……そうですよねぇ
 普通、コンビニおもてなしの品物を卸売りさせていただく際には必ずファラさんが運営しているおもてなし商会を通してもらっているんですけど……いくら皆さんが値切っても、ファラさんはご自分の設定した金額をびた一文負けないんですよ。
 ドンタコスゥコ商会のドンタコスゥコを筆頭に、利用者の皆様は毎回ほぼ玉砕なさっている次第なんですよ。
 
 ただ、

 ファラさんの提示する値段が暴利ではないことと、いつも利用しているとさりげなくおまけをつけてくれたりするといった、ちょっとした気遣いと言いますか、ツンデレといいますか、そんな対応を欠かさないもんですから、皆さんも懲りずにおもてなし商会を利用し続けてくれている次第なんですよ。


 で、その条件を
「なるべく善処させていただきますので」
 ってことで了解してもらいまして、僕はその地下迷宮の場所を教えてもらいました。

 すると、その場所を横で見ていたスアが、
『……そこ、門があった場所に近い、ね』
 そう、思念波で話しかけてきました。

 スアの言う門というのはですね……
 このパルマって世界は、昔、魔法界っていう世界と6つの門でつながっていたそうなんです。
 ですが、魔法界に出現した魔王がこのパルマ世界に攻め込んでこようとしたもんですから、それをこの世界の勇者が怒って門を破壊してしまったそうなんですよ。

 で、その6つの門のうち、5つの門の残骸は今も各地に残っているそうなんです。
 
 ちなみに、その門のひとつがララコンベ温泉郷こと、辺境都市ララコンベ近くにあります崖の上にありまして、かつてその門を守護していたララデンテさんの思念体……要はあれです、肉体が死滅した幽霊状態ってやつですね、そんなララデンテさんがコンビニおもてなし4号店で働いてくれている次第なんですよ。

 ……こうして改めて考えてみますと、幽霊を雇用してるって、すごい話ですよねぇ


 で、まぁ、この話に関してはここまでにしておこうと思います。 
 現地に向かうにしてもですね、狩猟部門のイエロやセーテン達も今日はオネの1日ってことで狩りは休みですので、おそらく今頃はおもてなし酒場で夜通し飲んだくれている最中だと思いますので、その邪魔をするのは野暮ですからね。

 店長さんとわかれた僕達は、その後も屋台を見て回りました。

 串焼きは、僕も食べたかったので1人1品にはノーカウントってことにしたもんですから、パラナミオ達は何を買ってもらうか一生懸命考えていた次第です。

 そんなみんなの様子を見つめながら、僕は笑顔で屋台の合間を歩いていました。

 ……いつか、ここに屋台を出せるようになるくらい、長く商売を続けたいもんだなぁ

 そんな事を考えながら。

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