秋の味覚フェア第二弾 その1
ヤルメキスが12つ子の赤ちゃんを産んで数日経ちました。
スアが開発したオルゴール魔石のおかげで、あの日以降ヤルメキスの赤ちゃん達が夜泣きをすることはなくなりました。
……しかし、オタマジャクシの尻尾を持った6人によるあの大合唱は、今思い返してもすごかったな、と、思わず苦笑してしまうほどですね。
でも、そのおかげでスア製のオルゴール魔石が出来上がったわけですし、この魔石が予想以上のヒット商品になってもいるわけです。
こうして考えて見ますと、あの子供達ってば、コンビニおもてなしにも波及効果をもたらしてくれる、福の神みたいな子供達ですね、ホント。
ちなみに、そろそろみんなに名前をつけて役場に届出ないといけない時期なのですが、
「12人……ああでもない……こうでもない……」
ヤルメキスの旦那さんのパラランサくんが、ブツブツ呟きながら街道を歩いている姿が、最近妙に増えた気がしているのは、間違いなくこのせいだと思っている次第です。
しかしあれですね……
コンビニおもてなしでは赤ちゃん用品として抱っこひもやベビーカーなども販売してはいるのですが……
12人の赤ちゃんを一度に運ぶためのベビーカーや抱っこ紐なんてないわけですが……もしヤルメキスから正式に「こんなの作って欲しいでごじゃりまするぅ」なんて依頼されたらどうすればいいのだろう……
そんな12つ子用のベビーカーなんて、僕が元いた世界でも聞いた事がありませんからね……
今のところ正式には依頼を受けてはいないものの……何か考えておいた方がいいかな、と、思わなくもないわけです。
とりあえず、この12つ子用のベビーカーに関しては、ルアと共同開発することになっています。
どこかの街や村に、ヤルメキスのように赤ちゃんを多産しちゃって困っている人がいないとも限りませんからね。ルアと一緒に頑張ってみようと思います。
◇◇
と、まぁそんなわけで……
コンビニおもてなしでは、赤ちゃん用製品の販売を若干強化しているのですが、これを受けまして妙に張り切っている方々がおられるのです。
他ならぬ、テトテ集落の皆様です。
テトテ集落のお婆さま一同は、僕がルシクコンベから仕入れた布を使って主に子供服を作成しているのですが、そのラインナップの中に、赤ちゃん用の衣類を大量に投入しているんです。
そのデザインは、僕が元いた世界の雑誌にのっていた写真をみてもらって、それを元にして試行錯誤しながら作成してもらっているのですが、コンビニおもてなし3号店の2階にあります、テトテ集落の衣類販売所にこうして出来上がった試験販売品が並びますと、
「まぁ、これ可愛い!」
「こっちも素敵ね!」
定期魔道船でやってこられた若いママさん達が、その試作品を手に取りながら嬉しそうな声をあげ、同時に勢いで購入してくださっている次第です。
……で
「おばちゃまね、この服こそ、ヤルちゃまの12人の赤ちゃん達にふさわしいと思うのね」
テトテ集落の衣類販売所の中には、いつの間にかオルモーリのおばちゃまの姿まであったんですよね。
おばちゃまってば、一般のお客さんに混じって、テトテ集落製の子供服の試作品を手に取っては気に入った物を購入してくださっているのですが、毎日新しい試作品が店頭にならんでいることを受けまして、連日のようにテトテ集落の衣類販売所が開店する前から、その入り口の前に並ばれているんです。
ヤルメキスはコンビニおもてなしの社員ですので身内みたいなもんです。
その義理のおばあさんであられますオルモーリのおばちゃまも、家族といっても問題はないと思っているわけです。
そんな人のためであれば、少し便宜を図らせて頂きますよ、と、そう打診させていただいたこともあるのですが、おばちゃまはその度に、
「いえいえ、みなさまと一緒で結構と、おばちゃま思うの」
オルモーリのおばちゃまは笑顔でそう言ってくださるんですよね。
……まぁ、そう言いながらも毎回一番乗りかつ、気に入った商品をほぼ全て購入なさっておられますので、最初から配慮を考える必要がなかったといいますか……
◇◇
コンビニおもてなし本店では、現在5人の研修生がバイトとして勤務しています。
少し前に、尻尾が2つに割れて人の姿に変化することが出来るようになったウルムナギ又の5人娘達です。
5人は、コンビニおもてなしの新人研修係の役割がすっかり板についた魔王ビナスさんの指導を受けているのですが……
いえね……ルービアスの時もそういえば結構大変だったんですよ。
と、いうのもですね……ウルムナギ又って、ウルムナギ時代のからだのヌルヌルが手のひらと足の裏に残っているんです。
そのため
商品を手に取ろうとすると、つるつるっと滑らせちゃうし、靴を履いて普通に歩いているだけなのに、その靴がスポーンと脱げてしまい、更にすてーんと転んでしまうことが少なくないんですよ……
しかも、それがですね
「あぁ、転んでしまったぁ」
「続いてこっちまで」
「その上さら」
「に」
「私達も~」
といった具合で、1人が転ぶと全員が連鎖して転んでしまうもんですから、魔王ビナスさんも
「ちょっと皆さん? 冗談は休憩時間に済ませておいてくださりません?」
笑顔でそう言っておられるのですが……その笑顔の背後に、真っ黒なオーラが立ち上っていて、その絶望の波動をうけたウルムナギ又の面々が思わず抱き合いながら
「ゆ、ゆ、ゆ、許してください~」
「こ、これでも」
「大真面目」
「に」
「やってるいるのです~」
息の合った感じでそう言った次第なんです、はい。
ルービアスもそのぬるぬるが相当ひどかったのですが、それでもコンビニおもてなしの店頭に出て試食配布を頑張っているうちに、どうにか自制出来るようになったのですが、それを受けて今ではコンビニおもてなし5号店西店の正社員として働けるまでになっているんです。
まぁ、ルービアスレベルまでとなると相当大変だと思うので、とりあえず5人には出来る事から頑張ってもらおうと思っている次第です。
◇◇
そんな中……
コンビニおもてなしでは、秋の味覚フェア第二弾を実施しています。
今回は、テトテ集落にあります果物園とコラボしたバックリンご飯弁当やカゲタケご飯弁当なんかをアレンジした商品をラインナップに加えている次第です。
この2種類に関しましては、おにぎりにしたものも同時に販売しています。
他にも、出来たばかりの干し柿ならぬ干しカルキを3つを1つの容器にいれた物をヤルメキススイーツの新商品として並べています。
この作業は、ケロリンとアルカちゃんが一緒になってこなしてくれています。
ヤルメキスが育休に入った上に、求人募集にも反応がなかった物ですから、ヤルメキススイーツ部門の生産数ががた落ちになるんじゃないかと心配していたのですが、ケロリンとアルカちゃんの2人が予想以上に頑張ってくれているかげで、今のところ大きな問題もなく、商品を開発出来ている次第です。
しかし……もう少し秋のフェアにふさわしい新商品はないものだろうか……
僕はそんな事を考えながら腕組みしていた次第です。