こんにちわ赤ちゃんでごじゃりまするぅ その4
僕達一家が住んでいる巨木の家に、ケロリンが駆けつけてきたのは深夜0時頃のことでした。
ちょうど僕と……えっと、はい……いたしていた最中のスアがですね、その気配に気付きまして。
「……もう、今、大事なとこなのに」
あからさまに不機嫌そうな表情をその顔にうかべながら服を身につけていきました。
僕も、スアに続いて、脇に置いていた服を身につけながら玄関へと移動していったのですが……
「お、お、お、遅くに申し訳ございませんですぅ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとヤルメキスちゃんが困ったことになっていましてぇ」
玄関の向こうで、ケロリンが息も絶え絶えといった様子で僕とスアに言葉をかけてきました。
大慌てで駆けてきたらしく、ぜぇぜぇと荒い息を吐き続けているケロリン。
この様子は確かに大変なことが起きたようですね……
そう察したスアが、即座に転移ドアを展開してくれました。
僕達の前に転移ドアが出現しました。
その先は、ヤルメキスの寝室です。
で、
その戸をスアが開けたのですが
ケロケロケロ
ケロケロケロ
ケロケロケロ
ケロケロケロ
ケロケロケロ
ケロケロケロ
「うわ!? な、なんだこりゃ!?」
扉の向こうから一斉に聞こえて来た蛙風の鳴き声の大合唱を前にして、僕は思わず両手で両耳を塞いでいきました。
スアも、開けていたドアをおもむろに閉めていった次第です。
「は、は、は、はいなのですぅ……夜になった途端にあの状態でございましてぇ……もうどうしたらよろしいやらぁ」
転移ドアを見つめながら、ケロリンはそう言いました。
「……まさかとは思うけど……今の鳴き声って、ヤルメキスの赤ちゃんの泣き声なのかい?」
「は、は、は、はい、そうなんですぅ。尻尾の生えて6人の女の子が一斉にあのような大合唱をはじめてしまったのですぅ」
僕の言葉に、何度も頷くケロリン。
……えっと……これはあれですかね?
人間の赤ちゃんに例えるなら、夜泣きってことなんでしょうか?
しかし、蛙人の赤ちゃんってば、こんな夜泣きの仕方をするんだなぁ……
転移ドアを見つめながら、僕はそんなことを考えながら感心していた次第です。
とはいえ、そんなに悠長にはしていられません。
幸い、オルモーリのおばちゃまのお屋敷は防音効果がなかなかな物だそうでして、赤ちゃん達の夜泣きの大合唱が外にもれてはいないそうなのですが、
「た、た、た、対応にあたっておられます、オルモーリのお婆さまとパラランサくん達が大変なことになっているのですぅ」
「ヤルメキスは?」
「は、は、は、はいぃ、出産直後なのでと、お婆さまが別室に避難させておられますぅ」
とまぁ、そんな感じで、ケロリンからお屋敷の状況を一通り聞いた僕は、スアと顔を見合わせていきました。
我が家の赤ちゃん達はほとんど夜泣きをしませんでした。
そのため、こうした事態に際しまして何をどうしたらいいのか、すぐに思い浮かびません。
「……キキキリンリンに聞いた話だと、気をそらせたり、リラックスさせてあげるといいと言ってた」
スアはそう呟くと、腰につけている魔法袋の中から魔石を取りだしまして、それに何やら魔法を込めはじめました。
そして数分後
「……さぁ、行こう」
スアのその声を合図に、僕達は再びヤルメキスの寝室へ移動していきました。
再びあの大合唱が聞こえてきます。
ケロケロケロ
ケロケロケロ
ケロケロケロ
ケロケロケロ
ケロケロケロ
ケロケロケロ
みんな同時に鳴き続けているわけですが、そんな6人を、オルモーリのおばちゃまと、パラランサくん、そして屋敷のメイドらしい女性達が一人が一人赤ちゃんを抱きかかえてあやしていました。
「はいはいおばちゃまですよ~怖くないですよ~」
おばちゃまは、自分が抱っこしている赤ちゃんを前にして満面の笑顔を浮かべているのですが……
ケロケロケロ……
そんなオルモーリのおばちゃまの腕の中の赤ちゃんは泣き止む気配がありません。
それは、他の5人も同様でして……なんといいますか、狂想曲なみの大合唱が繰り広げられていた次第なんですよね……
すると……
そんな部屋の中に、スアがてくてくと進んで行きました。
部屋の中央におかれていた机の上に、先ほど魔法をこめていた魔石をおくと、スアは再び魔法を唱えました。
すると……
部屋の中に、静かな音が流れ始めました。
小川のせせらぎ
木の葉のざわめき
そして、静かに聞こえる蛙の鳴き声……
同時に、魔石から発した淡い光りが室内を優しく照らしていきました。
すると……
それまで激しく鳴き続けていた赤ちゃん達が、徐々に泣き止み始めまして……5分もすると静かになってみんな寝息をたてはじめたんですよね。
あぁ……なるほど……
スアは、赤ちゃん達の気持ちをリラックスさせるために、この部屋の中に川縁の光景を再現したということなのでしょう。
「まぁまぁ、みんな大人しくなってくれたわ」
オルモーリのおばちゃまは、笑顔をうかべながら自分が抱っこしている赤ちゃんを見つめていました。
……で、ですが
そのオルモーリのおばちゃまってば……かなりお年をお召しになっておられるのですが……落ち着いてよく見てみますと、ぴ、ピンクでスケスケのネグリジェを身につけておられまして……
とりあえず、直視するのは失礼だと思いましてそっぽを向いていた僕なのですが、
「まぁまぁまぁ店長さんも奥方様も本当にありがとうございますと、おばちゃま思うの」
そう言いながら、その姿のまま僕の元に駆け寄ってこられまして……いや、ホント……こういう場合どうしたらいいのやら……
◇◇
とまぁ、そんなわけで……
昨夜は、スアの機転で事なきを得たヤルメキスの赤ちゃん達だったわけです。
で、ですね……
スアが作成した夜泣き解消用のオルゴール魔石とでもいうべき品物なのですが、
「おばちゃまね、この魔石をいっぱい買いたいの」
そう言われたオルモーリのおばちゃまの意向を受けまして、早速スアがこれを量産してくれました・
で、オルモーリのおばちゃまに買い取って頂くと同時に、夜泣き対策用オルゴール魔石として、コンビニおもてなしでもこれを販売してみることにしました。
すると、この魔石は結構売れたんです。
ただ、赤ちゃんの夜泣き解消のためだけではなく、不眠に悩んでいる人々にも結構売れたといいますか……
なんと言いますか、この世界にも不眠に悩む人は大勢いるそうなんですよね。
そんな皆さんが、オルゴール魔石の
「赤ちゃんの寝かしつけにお試しください」
この売り文句に反応なさったわけです、はい。
このオルゴール魔石ですが、川の近くだけでなく、森の中、大空、街の雑踏、海辺といった感じで、様様な音のバリエーションの物を販売しているのですが、そのどれもがなかなか好調な売れ行きなんですよね。
「昨日は大空の魔石で寝たから、今日はこの海辺を試そうかな」
販売コーナーの前で、そんな事を言われているお客さんをよく見かける次第です。
赤ちゃんの夜泣き対策にと、急遽作成したこのオルゴール魔石ですけど……ホント、何がどうなるのかって、時に想像もつかないといいますか……
◇◇
とりまえず、このオルゴール魔石のおかげで、ヤルメキス家の赤ちゃん達の夜泣きもすぐに沈静化させることが出来るうようになったといいますか、そもそもこのオルゴール魔石を起動させてから就寝するとみんな夜泣き知らずになってくれたそうです、はい。
「まぁ、結果的にみんなよかったってことかな?」
僕が笑顔でそう言うと、スアはそんな僕の手を引っ張りながら上目遣いをしています。
……どうやら、まだ満足していない方がここにいらっしゃったようですね。
そういえば、先日途中辞めになって以後、いたしていなかったような……
そんなわけで、今夜はいつもより多めに頑張った僕でございます、はい。