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武器と牢獄

 鳳神社では参拝客を入れないようにして、男たちが兵器の接収に当たっている。武装している彼らは、今の軍人のイメージとはかけ離れている。軍人が金鵄(きんし)勲章を付け始めたのは明治23年から。質素な洋装という表現が合う。
 隊長格の布良見斎(めらみいつき)は作業中にむっとしながら呟く。

「玄武隊め、まだ戦うつもりだったらしいな」

彼は参謀にあたる。服装は現代に残る写真で言うと、新撰組副長の洋装に似ている。
玄武隊は戊辰戦争に幕府軍として出征したものたちだ。戦争は終わっており彼らはもういない。

「これだけの武器が使われれば大事だ」

戦死して使う者はいないというのに、銃剣や大砲が大量に出てくる。新政府の保管所まで運ばなければならないが、大人数で1日かかる。
 斎の作業中に部下である臼田是按がやってくる。斎がインテリ風の顔つきならば、是按は体格がよくて硬派そうに見える。是按は口元に手を当てて言い辛そうにしている。

「玄武隊の関係者らしいものが参拝に来ております」
「追い返せ」

関係者は追い返せるような相手ではない。神社と親密にしている。また、冷気を使ったら右に出る者はいないという使い手と伝える。絶対入れるなという方針はたやすく変更される。

「通せ」
「お邪魔いたします」

雪のように白い肌の人物の雪女深雪が現れる。隊士とともに途中まで随行し、最後の戦いには来るなと断られた過去をもつ。彼女は妖しであり玄武隊の落伍者といえる。今は部外者になって敵対してはいない。
 深雪は是按に問う。

「軍刀に小野田の物はありませんでしょうか……」

戊辰戦争は銃の戦い。遠征でもあり余計な軍刀は置いていったかもしれない。武器を物色するとそれらしいものがある。

「刀身はやれないが、鞘だけなら下付してやってもいい」

廃刀令のこともある。武器は渡せないが鞘なら構わない。深雪は手渡されると大事そうに布で包み始める。
 是按は他の武器も調査をしている。斎のもとにやってきて耳元にささやく。

施条(ミニエー)銃が見当たりません」
「持ち去られたか……誰か心当たりはあるか?……いや、言わずともいい」

悪鬼の首領、白蝋王という人物が近くに住んでいる。銃を入手すれば、姿形もない幕軍などよりも厄介な存在になる。
 そういえば、深雪は冷気を使ったら右に出る者はいないという猛者だ。

「白蝋王を討伐してくれたら、もう少し自由に動けるようにしてやっていい。小野田の墓参りくらいはできるようになる」

妖怪関係者は裏横丁以上外に出られない協定がなされている。(いつき)の口添えで戦地に行ける。しかし深雪は首を横に振る。

「戦いは望みません……」
「ふふふ、政府軍に恐れられた雪の女王が府抜けたものよ」

(いつき)は口元に手を当てると、口角を少し上げた。

 文吾と会って5日後のことになる。深雪は罪人の姑獲鳥(うぶめ)に会いにいく。

「わたしは姑獲鳥の裁判に参加しています。多くの情報を知りたい、知らねばならない」

搭季(とうき)は理由がよく分からない。陪審員は全てを知らなければならない刑事ではない。裁判日だけ関わればいいのにと思う。

「熱心なことで。せいぜい他人から得られる情報で構いません。もっとも商売に影響するなら対処します」

利益が無いのに、得体の知れない鳥女に会いに行く気はない。深雪は店から秘蔵の香水(パフューム)を持ち出した。この沈静をもたらす香水は、人はもちろん妖しの精神にも作用する。姑獲鳥の心証をよくし、情報を得るのに役立つと思われる。

 閻魔庁の地下は広い空間があり、石壁の道が続いている。この空間は水銀燈のような照明がない。手持ちの燈曾(ランタン)に頼ることになる。深雪は熱いものが苦手なため、琥珀の鬼とよばれる妖怪が代わりに持っている。最奥の暗がりに妖しの気配がする。

「ロウハココダ。ヨウガスンダライエ」

琥珀の鬼は鍵を開けると深雪を中に入れて、話し終わるまでまた鍵をかける。姑獲鳥は人と鳥の中間の顔をしていて、琥珀の鬼でも不気味に感じてしまう。深雪が入ってきたので姑獲鳥が暴れ始める。秘蔵の香水(パフューム)を振ると大人しくなる。

「あなたが強盗する前に、何があったのか聞かせてください」

香水なのか深雪の口調なのか、信頼できる人物に思えたらしく話し始める。白蝋王という人物が、求人(アルバイト)募集をしていたので参加した。不思議なことに会った後の記憶がない。それは深雪が使う香水とは逆に、白蝋王による洗脳に思えた。

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