第8話 爆裂せしもの。
「ビート様、私も戦います! 少しだけ時間を下さい。」
「了解、任せろ!!」
ヒビトがゴブリンを近づけぬように、大きな声をあげて自分に奴らの意識を集中させると、シスターモモは
『大いなる女神エルムよ、その加護を持って我が祈りに応え、
彼女が広げた木の板には簡易召喚陣が描かれており、彼女祈りに呼応して中心部分が闇に覆われ、そこから煙のような物が沸き上がった。煙は徐々に形を成し、召喚陣の上には手の平より大きなカタツムリが1体現れた。シスターモモはそのカタツムリを手に取ると両目をつついて引っ込めさせた。カタツムリは体を赤く染め始めるとゆっくりと
「ビート様、これを敵に投げて!」
ゴブリンを盾で弾くとシスターモモからカタツムリを受け取った。角が伸びきり、もう目が出そうだ。『早く!』シスターモモに急かされて右手から迫りつつある集団の先頭に投げつけた。
日比斗が投げたカタツムリは先頭を走っていたゴブリンの手にスッポリと収まると轟音と爆炎を撒き散らして爆発した! 後続のゴブリン達も爆炎に巻き込まれて霧散していった。
ちなみに俺の方にも爆発の轟音と爆風で飛ばされそうになった。盾と体でシスターモモを
「すっげーっ。何コレ?」
『マスター、コレは【マイマイン】という魔獣で危機的状況を感じると体内で生成されるグリセリンを放出して自爆するという一風変わった生き物です』
「いやいや、一風変わり過ぎだろ!」
「ビート様、次です!」
シスターモモから渡された【マイマイン】は既に真っ赤に体色を変化させ、目が開く寸前だ。
「うわっ、うわゎわわわ……」
あわてて投げた先には大した数のゴブリンはいなかった。だが、付近にいたゴブリン達の何体かは炎に巻き込まれ霧散した。
炎こそ届かなかったものの、爆風によって俺とシスターモモも吹き飛ばされてしまった。たぶん、そのひょうしに一瞬だけ気を失ってしまった。
『マスター、マスター!!』
ティーの声で気が付くと俺は地べたに這いつくばっていた。慌てて上体を起こし、状況を確認する。慌てて上体を起こし、状況を確認する。どのくらい気を失っていたのか分からないが、今の爆発でゴブリン達も動揺しているのか少し距離を取って警戒している。俺の少し後ろにはシスターモモが倒れていた。慌てて駆け寄ると息があるか確かめた。
「フィルスさん、フィルスさん!」
『大丈夫です、マスター。シスターモモは気を失ってるだけです。それと先ほどミッション・クリアと追加ミッションが発生しました』
えーっ何でいまさ。ティーによると先ほどの緊迫した空気の中ではとても言い出せなかったらしい。続けて戦闘状態に突入しちゃったしね。まあ、とは言うものの今も戦闘継続中なんだけどさ。とりあえず周りの状況を伺いながらウインドウを開いた。
[クエスト一覧]
◎ダグの村を救え!
【クエスト1】
畑を荒らす害獣を駆除せよ。
成功報酬〔10G〕
【クエスト2】
西の森に現れたゴブリンを
駆逐せよ!
成功報酬〔10G〕
【シークレットクエスト】
フィルスの好感度を上げろ!
☆作戦成功《ミッション・クリア》〔パートナーを得た。〕
「何コレ、クエスト2は良いとして、この【パートナーを得た。】ってなに?」
ティーははっきりとは答えず、口を
『パーティー、メンバー……的な?』
なんで最後疑問形だよ。
「それでどんな利点があるんだ?」
『心の平穏とか安らぎ……とか?』
あーもう、戦闘に全く役立たないじゃん。すぐに手は出して来ないものの、確実にこの森に出現したゴブリンの全てが集結しつつあるとのティーからの報告だ。その数、数百体を越えるのではないかととの事だ。全く気分が憂鬱にしかならない。
早く気絶したシスターモモを起こして突破口を見付けなければならないのだが、気絶してる女の子を不用意にさわる事が出来ずに現状を変えられずにいたのだ。
ティーは『男ならスパッとやっちまえ!』とか飛んでも無いことを口走っているが、生まれてから一度も彼女がいた事のない俺にはハードルが高過ぎる。
肩を軽くさわって揺すってみたが反応がない。その時ふと、彼女の
「コレって俺でもつかえるんだよな?」
『はい、マスター。正しい呪文と祈り、それから呼び出す魔獣のイメージがあれば大丈夫かと』
俺は簡易召喚陣を手に取ると、召喚陣に手をかざしうろ覚えの呪文を唱え始めた。
『あぁ、ダメです、マスター!! 呪文が適当だと……』
ティーの制止は間に合わず、俺は自分の覚えてる限りの呪文を唱え始めた。
「女神エルムよ、その加護を持って召喚獣を出現させたまえ! いでよ【マイマイン】!!」
マイマインのイメージを送り込むと召喚陣の中心部分が闇につつまれ、中から煙が………出ない。あれ?
中心部の闇を覗き込もうとすると、中から巨大な目玉が飛び出した。それは間違いなく先程みたマイマインの目玉だ。だがしかし、目玉から頭部に至る【角《つの》】の部分だけで既に1メートル近いのだ。
目玉はぐるっと辺りを見回すと闇の部分を強引に広げ、その巨大な体で這いずりだした。全長は5メートル以上あるだろうか、正直ちょっとした怪獣である。
「ゲッ! ティー、な……なんだコレ?」
『ま、マスター、ヤバイです。たぶんコレは王種《おうしゅ》です』
「王種!?」
ティーによれば王種というのは数千体に1体生まれるかどうかの希少種で、通常個体の数百から数千倍の能力を持つと言われている。いわゆるキングスライムとかキングベヒモスなどのキングの名を冠するボスキャラ的な生き物であるらしい。
キングマイマインは頭を振ってあたりを見回すと、ゴソゴソと
攻撃を受けたゴブリン達も黙ってはいない。手にした武器で次々とキングマイマインを攻撃し始めた。大したダメージを与えるには至っていないのだが、キングマイマインはその体を徐々に赤く染め始めていた。
「ティー、コレがもし爆発したらどうなる?」
『たぶん1キロ圏内は火の海かと……』
俺は気絶したままのシスターモモをあわてて抱き抱えると、その場から全力で走り出した。効果範囲1キロが火の海ってバカじゃないの!
ゴブリン共はどんどんその数を増して、動きの鈍いキングマイマインをいい気になって攻撃している。このままでは範囲外まで逃げる時間が足りない。
「ティー、どこか隠れる場所、爆発から身を守れる場所は無いか!?」
『三時の方角に滝壺《たきつぼ》があります。時間的に退避可能なのはそこぐらいです。急いで、マスター!』
俺はティーを胸元に押し込むとギアを全開にして滝壺があるとされる方角に向かって全力で走った! 木葉や木の枝であちこちが切れているのも構わず本気の全力で走りに走った。
『マスター、衝撃波来ます!』
ティーの報告と滝への到着はほぼ同時であった。崖っぷちから滝壺まで30メートル近くありそうだ。びびって足がすくんだ。
「た、高っけ━━」
日比斗が全てのセリフを言い終わらぬうちに爆発の衝撃波で吹き飛ばされ、滝壺へと落下していった。
「っけ━━えぇぇぇぇぇっ…………!!」
ヒビトの立っていた崖が遅れて来た爆炎で焼かれたのは滝壺への着水とほぼ同時であった。
ーつづくー