超巨大ピラミッドの体を成している国家、ハラムディン。
この国で暮らす多くの人々は、大きく三つに分類される。
まず一つが80階層以上に住居を構える王族と、それに従事する者たちだ。
基本的に王族以外は皆一様に、高いステータスランクを保有している。戦闘能力を磨き上げ実績を積み重ね認められた者が、王族を守ることを前提に上層階へと汲み上げられるからである。
勿論強さとは、純粋な戦闘能力だけとは限らない。80階層の階層主のように、人脈と情報を巧みに操り、のし上がった者も少なくない。
次に80階層以下の居住階層に住む数多の人々。ハラムディンで暮らす大部分の者がこれに属する。
70階層から10階層ごとに設けられた居住階層は、民の生活の場と同時に、外魔獣の上層突破を食い止める盾の役目も兼ねている。
故に居住階層で暮らす者たちは、命を張ってその侵攻を食い止める対価として、国からいくばくかの賃金が支給されている。この国で一番多い雇用形態。つまりは傭兵に近い。
居住階層では物資の販売や食を賄う職種も存在する。住人間での流通で独自に賃金を得てはいるが、国からもわずかながらに補助金が支給されている側面を鑑みれば、居住階層で暮らす者たちは、国の薄い庇護の元、一緒くたと考えても差し支えはない。
そして最後は冒険者。
国から支給される賃金をあてにせず、居住階層間の迷路を行き来して、外魔獣のドロップするアイテムや稀に獲得するレアアイテムを売って生計を立てている者たちの総称だ。
冒険者などと聞こえはよいが、所詮は一攫千金を狙うその日暮らしのアウトロー。そしてその数は決して多くない。
アイテムについて話を戻すが、居住階層で日々外魔獣の侵入を防ぐ攻防でも、当然アイテムはドロップされる。だが国から賃金を貰っている以上、当然ながらそのアイテムは国に所有権が発生してしまう。階層主監視下の元、漏れなく国———王族へと献上される。
いや、一部には実情を操作して私腹を肥やし、上層階への足掛かりとする者もいるにはいる。そう、80階層までのし上がった階層主のように。
だが、やはりそれは例外で、武具の資源となる貴重なアイテムは、その大部分を国が保有してしまう。下層の居住階層で戦う者たちは、国からの賃金と支給された武具で、外魔獣と命を削り合うのだ。
国を守る労力とドロップされるアイテムの対価込みで支払われる賃金は、一見すると効率のよいシステムにも思えてしまうが、実情はそうでもない。
アイテムの運送に関しては楽である。聖支柱を使えばいい。ハラムディンの中央を背骨のように直立する聖支柱は、思念以外にも物理的な転移も可能なのだ。ただしその使用に関しては王族の許可が絶対条件であり、生物———人の移動は許されていない。それを許してしまったら、上層階の特権が皆無になってしまうので、当然の話である。
したがって国に吸い上げられたアイテムは上層階で武具へと製造され各居住階層へと行き渡るのだが、外魔獣の数が多くなる下層に向かえば向かうほど、需要の声は高くなる。裏返せば、それだけ戦闘が激しい証拠。
武具の保有——とりわけ上質な武具ともなれば、戦う者からしたら垂涎もの。誰だって自分の命には変えられない。故に闇市が成り立ってしまうのは、必然と言っても過言ではないだろう。その流通を支えるのが、冒険者の存在なのだ。
彼ら彼女らが仕入れてくる上質なアイテムが、そこそこ高値で取引され、居住階層でも独自の武具が生成される。国としても供給を増やせない現状に、冒険者の存在を知りながらあえて黙殺という形を作ることで、統治する側の面子を保ちつつ、現場の不満を解消することに徹している。
80階層以下の生活の中には、当たり前のように戦いが鎮座しており、常に「死」と隣合わせのハラムディン。
大和とエリシュは現在、居住階層間を根城とする冒険者を名乗り外魔獣との死闘を繰り広げながら、下層へと向かいひた走っていた。
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