第20話 受けた借りは必ず返す!
下層へと続く階段を降り、ここは79階層。
80階層より上の人工的に整備された
俺たちは階段の側で腰を下ろし、ひとまずは息を整える。
「なあ……80階層のあの女が玲奈じゃなかったのは残念だったんだがな……国家反逆罪って一体どういうことだ!? 俺が城を飛び出したのも、
俺の知らない事情が、きっとある。
振り向いたエリシュは垂れる黒髪を指ですくい、耳の後ろへと流す。遮るものがなくなった視界に俺を捕らえ、ゆっくりと口を開いた。
「ブレイク王子はね、クーデターを起こそうとしていたの」
「く、クーデターぁぁぁぁぁ!?」
想像の
暫く続く無音状態。ようやく俺は言葉を取り戻す。
「……い、いやちょっと待て! 一旦整理。……ブレイクって王子だよな?」
「ええ」
「王子って、偉いよな? 生活にも困っていないよな?」
「まあ、そうね」
「その偉い王子様がクーデター? どういうことか、さっぱりわからないんだけども!?」
エリシュが
「偉いからこそ、よ。……さっきも少し話したけど、平和なのは80階層と最上層の王城だけ。だって
「……でも、ブレイクは死んでしまった」
「ええ。クーデターを事前に察知した王———ブレイク王子の父親が、毒を盛ったと王子側の人間は考えているわ。……確証はないけれどね」
エリシュは薄弱な水の膜を瞳に作り、
溢れ出す思い出に耐えるその横顔を、俺はただただ静観することしかできない。
———いや、俺にできることがあるとすれば。
「……なあエリシュ。ブレイクはクーデターを起こして、何をしたかったんだ? 具体的に教えてくれ」
「
「———よし! 玲奈探しを手伝ってもらってる借りもあるしな! 階級制度の撤廃とか、王子の真似事はできねぇが、
「ヤマト……あなた……」
「だけど、玲奈探しが第一優先。これはぜってー譲れないからな! 玲奈を探して下層を目指す。
エリシュの頬に一粒の雫が走る。『口調は全然違うのに』と、溢した口元は対照的に優しい弧を描き出した。
女の涙には勝てないよな、と、どこかの陳腐なセリフを鵜呑みにして、俺は自分自身を納得させる。そして同時に。
———今このときにも、玲奈は一人で泣いているかもしれない。
消えない恋の情炎に、ありったけの|想い《燃料》を注ぎ込んで。
手足を動かそう、がむしゃらに。
待っている人がいるんだから。
俺は心情の勢いそのままに立ち上がると、大きく目を見張ったエリシュを笑顔で見下ろした。
「さあ行こうぜ、玲奈が待っている下層へ。次は50階層だったよな? グズグズしてる暇なんかねぇ。……っと、次も
「……ふふ。その必要はないわ。80階層より下層で、ブレイク王子の顔を知っている人なんて、滅多にいないもの」
「そ、そうか。でも俺たちって一応
「大丈夫。私たちは