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ジャッケが奏でる狂想曲 その4

 とまぁ、そんなわけで、遡上してきたジャッケを僕達は大量に入手することが出来ている次第です。

 これだけ捕獲してしまうと、ジャッケが遡上してこなくなってしまうんじゃないかって思ったりしてしまうんですけど、
「何を言われているでござる。ジャッケがこの程度で根絶やしになるはずがないでござるよ」
 森の狩りから戻ってきたイエロがそう言いながら笑っていました。

「遡上時期のジャッケは朝も昼も夜も、それこそ1日中遡上してくるでござるよ。昼間のジャッケは威嚇音を目一杯奏でながら遡上してくるでござるが、夜のジャッケはその正反対でござる」
 イエロにそう教えてもらった僕は、その夜スアと一緒に川の様子を見に行ってみたのですが……

 川の中を、ジャッケが遡上していました。

 しかも、昼間とはうってかわって静かに静かに遡上しているのです。
 こういうのって、生まれながらのジャッケの生態なのかもしれませんね。

 ちなみに、このジャッケですが、ウルムナギと一緒にスアの使い魔の森で養殖していたのですが……
 一度海に出て、成長してから生まれた川に戻ってくる習性を持っているジャッケはですね、いまいち養殖がうまくいかなかったんです。
 養殖にも、向いている魚、向いていない魚がいるっていうのは僕の世界でもよく言われていましたしね。

 とりあえず、卵をふ化させることには成功していますのでジャッケがまた元気に遡上してくれるように、ある程度まで育てた稚魚を今度放流しておこうと思ったりしています。

◇◇

 そんな中……どさくさ紛れといいますか、いきなり人型に進化したウルムナギ又5人娘なのですが、
「どうする? 僕はみんなの名前をつけた方がいいのかい?」
 そう、みんなに聞いてみました。

 ルービアスも、人型に進化した際に名前を持っていませんでした。
 んで、僕が名前をつけてあげたわけです。
 そんな経緯がありましたし、5人からも「ぜひお願いします」的に言われていましたしね。

 ですが、そう申し出た僕に対しまして、ウルムナギ又5人娘達は、
「お願いしたいのはやまやまなのです」
「でもですね」
「せめて、ジャッケ」
「に」
「勝てるようになってから」
 僕に向かってそう言った次第なんです。

 で

 そんな5人を見回しながらルービアスも、
「その意気やよしですよ! みんな頑張って私に続くのです!」
 そう言いながら、みんなに気合いを入れていたのですが……

 僕の記憶が確かでしたら……そんな台詞を口にしているルービアスもですね、ジャッケを捕らえたことなんて一度もなかったはずなんですけど……

 僕が、そんなことを思い出しながらルービアスへ視線を向けていると、ルービアスは
「な、何を疑り深い表情をその顔に浮かべておいでなのですか店長殿」
 どこか焦った様子でそんなことを口にしていた次第です、はい。

 その様子から察っするに、一応ルービアス本人にも自覚はあるようでですね。

 ルービアス自身、今は定期魔道船のガタコンベ発着場となっている湖の底で、ウルムナギ又の女王的な存在として君臨していたわけですし、それなりに威厳を保っておきたいと思っているのでしょうね。
 ここは武士の情けといいますか、いつも試食配布で頑張ってくれているルービアスに免じてこれ以上突っ込まないことにしようと思います。

◇◇

 そんなわけで……

 秋のコンビニおもてなしフェア、ジャッケ祭りは今も盛況このうえありません。
 
 先に販売を開始していますクエビを使ったエビチリ弁当やエビチリまんなども相変わらず好調です。
 ちなみに、このクエビはですね、おもてなし商会を通じまして一般の商会にも販売していまして、ティーケー海岸のアルリズドグさんにも
「いやぁ、ホント毎日こんなにクエビを買ってくれて感謝感激だよ」
 そんな風に毎日のように感謝の言葉をかけられているんです。

 ジャッケもおもてなし商会で扱えればいいのですが……昨年捕縛したジャッケは、ほぼ全部コンビニおもてなしだけで消費しちゃっていますからねぇ。

 そんな事を考えながら、僕は今朝もコンビニおもてなし本支店ならびに出張所へ配布する弁当の調理を行っていました。
 僕の横では魔王ビナスさんがすさまじい速さで同じ作業をおこなってくれています。

 僕と魔王ビナスさんの後方では、ヤルメキスを中心に、ケロリンとアルカちゃんがヤルメキススイーツを作成しています。
 ヤルメキススイーツも、僕の世界で言うところの栗によく似ているバックリンを使ったモンブランプリンやモンブランケーキなどを中心にして秋フェアにふさわしい商品を製造してくれています。
 最初の頃は手つきが相当おぼつかなかったヤルメキスなのですが、今では魔王ビナスさん……と比較するのはやり過ぎかもしれませんが、少なくとも僕よりはかなり手が早くなっていると思っています。

 そんな事を僕が考えていると、
「そ、そ、そ、そんな恐れ多いでごじゃりまする、こ、こ、こ、この私めのような半端者が店長様と比較されるなどぉぉぉぉぉ」
 ヤルメキスってば、大げさな声をあげながら、その場でジャンピング土下座していった次第です、はい。
 
 なんといいますか……ヤルメキスの土下座の光景もすっかりお馴染みになった気がしているのですが……これに慣れてしまうのはいかがなものか……

 土下座しているヤルメキスを助け起こしながら、僕はそんなことを考えていた次第です、はい。

 以前は、そんなヤルメキス達の隣で作業していたテンテンコウ♂が主体のパン工房ですが、今はナカンコンベにありますコンビニおもてなし5号店西店へ移転しています。
 向こうで行っている実演販売……地下にあるパン工房で行っているパン作成の様子を、コンビニおもてなし5号店西店の窓の一角に映し出しているわけなんですけど、これがすごく好評でして、5号店西店でのパンやサンドイッチ類の売り上げがホントすごいことになっています。

 5号店西店に比べまして、まだ知名度では劣っている5号店東店も、その売り上げ事態は右肩あがりですし、これからどんどん賑やかになっていくんじゃないかな、と思っている次第です。

 そんな中、スアが僕の側にテテテと駆け寄ってきました。
「……こんなの作ってみた、の」
 そう言ってスアが僕に差し出してきたのは……僕の世界で言うところのエナジードリンクでした。

 スアの魔法薬部門では、以前から様々な栄養素を配合したエナジードリンクを販売していまして、大好評なのですが……

 スアに手渡されたエナジードリンクのラベルには、
『秋の味覚配合』
 って書かれていました。
「秋の味覚?」
「……そう。カゲタケ、や、バックリンなんかの栄養素をぎゅぎゅっと濃縮して配合した、の」
 そう言いながら、スアは『試飲してみて』的な視線を僕に向けています。
 で、早速それを口にしてみた僕なんですけど、
「へぇ、すごく飲みやすいね、しかもなんだか元気になってきたような」
 僕はそんな感想を口にしていました。

 その言葉通り、このエナジードリンクはすごく飲みやすかったです。
 出汁に近い風味がしていましたけど、それがいい感じにアレンジしてありますので飲み物としてすごく飲みやすくなっています。これに関しては、スアがパラナミオ達に試飲してもらって改良したんでしょうね。
 で、飲んですぐに体の中に火がついたといいますか、ホントに元気になってきた気がします。

 気のせいか、下半身の一部が特に……

「す、スア……この成分だけは少し控えめにした方がいいかもね……それか、販売するのは閉店前だけにするか……」
 僕はやや前屈姿勢をとりながらそう言いました。
 そんな僕の様子を見ていたスアは頷きました。
「……わかった……で、どうする?」
「どうする……って?」 
 僕がそう言うと、スアは僕の耳元に口を寄せまして。
「……私は、いいよ」
 そう言いながら、頬を染めていた次第です。

 そんなスアの一言でさらにやばくなってしまった僕ですけど、しっかり夜まで我慢した次第です、はい。
 

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