コンビニナカンコンベ その1
ジャッケを日々収穫し続けているコンビニおもてなし本店です。
なんといいますか、その収穫にはホントに感謝しきりなわけです、はい。
新鮮なジャッケを入手出来て、しかもそれを新鮮なうちに調理出来るというのは、やはり嬉しいものですね。
日々調理をこなしている僕は、そんなことを考えていた次第です。
もともとコンビニおもてなしの店長をしていた僕ですが、こうして調理作業も日々行っていました。
父さんがコンビニおもてなしの店長をしていた頃から、将来はこのコンビニおもてなしを継ぐことになるであろうことを悟っていた僕は、大学に通う傍ら調理師学校にも通っていました。
と、いいますのも……
コンビニおもてなしは、数多ありますコンビニの中でも少々異質なコンビニだったんですよね。
何しろ、弁当の大半を店内製造していまして、それに炊きたてご飯をお入れするっていうのを売りにしていましたので。
唐揚げなんかのホットデリカ類を各店で製造販売しているコンビニはたくさんありますけれども、こうした手作り弁当を売りにしていたコンビニは、コンビニおもてなし以外にはありませんでしたからね。
で、その調理作業を行うことになっても大丈夫なようにと、僕は調理師学校に通って調理師免許まで取得していたわけです。
……とまぁ、偉そうにいっていますけれども
その結果どうなったかといいますと、コンビニおもてなしは支店の全てを閉店して、最後は本店だけ細々と営業していた次第です、はい。
店内製造販売のお弁当は、それなりに人気ではあったもののそれのおかげで売り上げが何十倍にも跳ね上がるなんてことはなかった次第です、はい。
そんなわけで、僕が元いた世界ではあまり売り上げに貢献していなかったこの出来たて弁当なのですが、こちらの世界ではそれが大成功を納めている次第です。
この世界に転移してきた僕……スアのその後の調査によりまして、何かの転移魔法に巻き込まれたらしいことが判明してるんですけど、そんな折りに、コンビニおもてなしといたしまして最初に売り出したのがこの出来たて弁当だったわけです。
こちらの世界の皆さんの趣味趣向がいまいち理解出来ていなかった当時の僕は、まず最初にガタコンベの中央広場に荷車の屋台を出しまして、そこで弁当販売を行ったのが、この世界での最初のコンビニの営業だったわけです、はい。
そんなコンビニおもてなしの屋台を、最初みなさんはおっかなびっくりと言いますか、
「あれ、食べられるのかい?」
「なんか、見たことがない料理のお弁当だなぁ」
「とはいえ、なんだか美味しそう」
そんな言葉を口になさりながら遠巻きに眺めるばかりだったんですよね。
そんな中……修行の旅の途中、たまたま屋台の近くに寄ってきたイエロに、このお弁当を1つ食べてみてもらったところ、
「うむ、うまい!」
と、至高の笑顔をその顔に浮かべながら弁当を食べてくれまして、それが呼び水になりましてガタコンベの皆様も弁当を購入くださるようになり、そして大人気へとなっていったわけです、はい。
◇◇
お客さんに支えられて日々営業を行えているコンビニおもてなしです。
そんなお客様のためにも、今日も頑張らないといけません。
「よし、今日も気合いをいれていこうか」
コンビニおもてなし本店の厨房の中で、僕はそう言いました。
すると、僕の周囲で作業を行っている魔王ビナスさんやヤルメキス達が、
「はい、頑張ってまいりましょう」
「わ、わ、わ、私もがんばるでごじゃりまするぅ」
そんな言葉をそれぞれ口にしてくれていた次第です。
そんな感じで、今日も調理作業を行っていた僕達。
5号店の地下にありますパン工房から運び込まれたパン類と一緒に、弁当などを各支店ならびに出張所行きの魔法袋へと詰めていきました。
その作業が終わるか終わらないかの絶妙な時間にハニワ馬のヴィヴィランテスが、スアの使い魔の森からやってきました。
「いつもだけどさ、ホントあんたってばハニワ馬使いが荒いわよね」
ヴィヴィランテスは、いつものようにブツブツ文句を言っています。
ですが、
背に魔法袋を乗せる作業を止める気配はまったくありません。
「まぁ、そういう約束だしね。約束した内容はきっちり守らせてもらうわよ」
ヴィヴィランテスはそう言いながら、ぷいっとそっぽを向いていきました。
そんなヴィヴィランテスに僕は、
「ヴィヴィランテスいつもありがとう、おかげでホントに助かってるよ」
そう言いながらヴィヴィランテスの首のあたりを撫でてあげました。
するとヴィヴィランテスは
「何すんのよ気持ち悪いわね」
そんな言葉を口にしたのですが、その言葉とは裏腹に……ヴィヴィランテスは嬉しそうに尻尾を振りながら僕にその頬をすり寄せていた次第です、はい。
いつも憎まれ口を叩いているヴィヴィランテスですけど……なんといいますか、ホントに頼りになるツンデレなわけです。
◇◇
そんなヴィヴィランテスが、一通り荷物を運び終えて戻って来ました。
配達が終わったヴィヴィランテスは、コンビニおもてなし本店で開店作業を行っている僕のところにやってきては
「今日の作業、終わったわよ」
そう報告してくれるのですが……今日は、いつものその報告を終えますと
「ちょっとあんた、聞いてる?」
そんな事を僕に話しかけてきました。
「『聞いてる?』って……何をだい?」
「その調子だと、聞いてないみたいねぇ」
そう言いながら、ヴィヴィランテスは僕の袖を咥えて引っ張っていきました。
そんなヴィヴィランテスに連れられて転移ドアをくぐっていった僕なのですが……到着したのは辺境都市ナカンコンベでした。
「あら? リョウイチお兄様ではございませんか!?」
5号店西店の開店作業を行っていた5号店西店店長のシャルンエッセンスに、
「シャルンエッセンス、いつもご苦労様」
そう声をかけた僕は、ヴィヴィランテスに連れられて、ナカンコンベの一角へと出向いていきました。
そこは、コンビニおもてなし5号店西店があります役場前の街道の西の外れに近い場所でした。
お店もまばらといいますか、ここまでくるといくら街道沿いとはいえ、人通りはかなり少なく、お店の数も激減しているのですが……そんな商店街の一角に、何やら新装開店したばかりらしいお店の姿があったのですが……
「え?」
その店の看板を見た僕は思わず目を丸くしてしまいました。
古い店舗を改装したばかりらしいそのお店。
その店の上部に掲げられています真新しい看板には、
『コンビニナカンコンベ』
と書かれていたのです。