コンビニナカンコンベ その2
コンビニおもてなし5号店西店からかなり西に行った場所にそのお店はありました。
『コンビニナカンコンベ』
真新しい看板には、確かにそう書かれています。
ただ、看板は真新しいのですが、お店そのものは少々古めかしいといいますか、そんなに真新しい感じではありません。
コンビニナカンコンベの周囲にもお店はあるのですが、すべて昔からやっている古めかしいお店ばかりでして、そんなお店達とほぼ同じ感じといいますか……
「まぁまぁまぁ」
僕の後を追いかけてきたシャルンエッセンスが、目を丸くしながらそんな声をあげました。
「リョウイチお兄様、これはどういうことなのですか? コンビニが……コンビニおもてなし以外のコンビニがこんなところに出来ておりますなんて」
そう言うと、シャルンエッセンスは腕まくりしまして、
「私、ちょっと文句を言ってきてやりますわ!」
そう言いながらお店に駆け込もうとしました。
で、僕はそんなシャルンエッセンスを必死に引き留めました。
「シャルンエッセンス、気持ちは嬉しいけど、とにかくちょっと待って!」
コンビニナカンコンベに駆け込もうとしているシャルンエッセンスを、僕は後ろから抱きかかえました。
この調子ですと、シャルンエッセンスってば店に入るなり
「ちょっと!このお店はどういうつもりなのかしら、勝手にリョウイチお兄様のコンビニって名称を勝手に使うなんて、言語道断ですわ!」
そう、喧嘩腰で言い出しかねません。
どんな時でも、まずは話し合いから始めないと……
そう思ってシャルンエッセンスを引き留めたわけです。
すると……シャルンエッセンスはびっくりするぐらいあっさり立ち止まりまして
「りょ……リョウイチお兄様がそう仰られますのでしたら……」
そう言った次第なんです。
よく見ると、その顔を真っ赤にしていまして、同時に体をくねらせています。
……あぁ、そうか。
僕は、シャルンエッセンスの様子を見ながら納得しました。
シャルンエッセンスは超がつくほどのブラコンです。
ただし、実の兄に対してではなく、実の兄以上に兄と慕っている僕に対してその感情は向けられているんですよね。
そんな僕に、後ろから腰のあたりを抱き留められたもんですから……
……と、まぁ、不可抗力とはいえ、とにかく殴り込みだけは思いとどまってくれたシャルンエッセンス。
そんな彼女と一緒に、僕はとりあえずコンビニナカンコンベの中へと入ってみることにしました。
◇◇
ちなみに……『コンビニ』の名前を冠した、コンビニおもてなし以外のお店を見るのは始めてではありません。
以前、『コンビニごんじゃらす』という店があったことがあります。
……他ならぬ、シャルンエッセンスが中心になってオープンさせたお店なんですけど……とにかく、あの店はひどすぎました。
『最近人気のコンビニおもてなしを真似さえすれば大もうけ出来るはずですわ、おーっほっほっほ』
っとばかりに、まずい弁当を販売したり、盗品を売ってみたりとまぁ……
「りょ……リョウイチお兄様……後生でございますから、その黒歴史を思い起こすことはご勘弁願いたいですわ……」
僕が、そんなことを思い出しておりますと、シャルンエッセンスは僕に腰を抱き留められた際以上にその顔を真っ赤にしていました。
まぁ、そんなことをしでかしたシャルンエッセンスですけど、今では心を入れ替えて、コンビニおもてなしの一員として頑張ってくれているわけですし、これ以上コンビニごんじゃらすの事を思い出すことはしないことにしておきましょう。
そんな経験がありましたので、商店街組合に『コンビニ』と『コンビニおもてなし』の名称を『固有名称登録』として登録してあったりします。
これは、僕が元いた世界で言うところの『商標登録』にあたるものでして、まぁ、簡単に言いますと。
『コンビニ』お呼び『コンビニおもてなし』と言う名前は、僕しか使用出来ない。
そうなっているわけです、はい。
なので、この『コンビニナカンコンベ』というお店の名前なんですが、厳密に言いますと『コンビニ』の名称は使用してはいけないといいますか、僕の許可なくこの名称を使用することは出来ないはずなんですよね。
このナカンコンベでお店を開店する場合、必ずナカンコンベ商店街組合に届出をする必要があります。
なので、その際に商店街組合の蟻人達から指摘されるはずなんですけど……
僕は、少し嫌な予感を覚えながらお店の中へと入っていきました。
「……あれ?」
店内に入った僕は、思わず目を丸くしてしまいました。
お店の中は、その外見とはうって変わって真新しい感じといいますか……言ってしまえば、僕の世界で営業していますコンビニエンスストアと遜色ない構造になっていたのです。
明らかに外観とギャップがあります。
それは、取り扱っている商品もまたしかりでした。
その店内で扱っている商品なのですが……
ポテト●ップス
カップラーメン
菓子パン類
そのどれもが、僕が元いた世界で営業しているコンビニエンスストアなら、どこでも普通に取り扱っているであろう商品ばかりだったのです。
逆に、この世界では再現が難しい品物ばかりなわけです、はい。
「……なんでこんな商品を扱ってるんだ、このお店は……」
僕は、カップラーメンを手にとりながら目を丸くしていました。
ちなみに……
コンビニおもてなしでも、一時期だけですがこういった商品を取り扱っていました。
僕は、お店ごとこの世界に転移してきましたので、最初は店内在庫を切り売りしていたんですよね。
確かに人気になりましたけど……その人気のため、あっという間にそれらの店内在庫は売り切れてしまった次第なんです。
そのため、それ以後はこちらの世界で入手出来る品物を元にしてあれこれ商品開発し続けて、今にいたるわけです。
「あれ、お客さん? いらっしゃい!」
そんな僕に、店の奥から声が聞こえてきました。
女性の声です。
そちらに目を向けますと……緑を基調にした制服を着ている年若い女の子の姿がありました。
見たところ、僕よりかなり若い感じですね。
20代そこそこといったところでしょう。
ちなみに、その制服の下はジーパンです。
これも、僕の世界特有の感じですね。
その女の子は、僕に向かって満面の笑みを浮かべています。
いわゆる、営業スマイルってやつですね。
店内を見回してみますと……この女の子の他に、あと2人店員らしき人物がいます。
2人とも、この女の子と同じ制服を上半身に着込んでいるのですが、その下は見るからにこの世界に衣装です。
一人は魔法使いのようでして、下がローブでトンガリ帽子を被っています。
もう一人は騎士のようでして、鎧の下半分を着込んでいます。
「……このお店は、3人でやっているんですか?」
「はいそうですよ。本日から開店いたしました」
僕の言葉に、その女の子は満面の営業スマイルを浮かべ続けています。
その胸には名札がつけられています。
そこには、
『コンビニナカンコンベ 店長 ミワユキカ』
そう書かれていました。
ミワユキカ……なんか、その名前からして、僕の世界の住人によく似ているといいますか……
僕は、そんな事を考えながら、その女性、ユキカへ視線を向けていました。